「赤ちゃんラボ」での研究成果

佐藤久美子・玉川大学大学院教授

【三宅義和・イーオン社長】佐藤先生の研究に乳幼児の言語獲得・発達があると聞いています。そもそも、その分野に興味を持たれたきっかけは何ですか。

【佐藤久美子・玉川大学大学院教授】私が津田塾大学と大学院で研究していたのは英語学における「生成文法」という分野でした。ネイティブの人たちが自然に英語を話して、意味を理解するプロセスを規則化するという研究です。その一環として、子どもの場合も研究対象にしていました。ただ、理論的な研究ですから、ひたすら文献を読んで学んでいたのです。

大学院を出てすぐ玉川大学に勤めたのですが、そういう理論的な話をしても学生たちがぜんぜん興味を持ってくれません。そこで、「あなたたちは何に興味があるの?」って、いろいろ聞いてみたら、「どうやったら英語が話せるようになるか」とか、「どうしたらきちんと聴けるようになるか」ということでした。なるほどと思い、第二言語習得をテーマに、実践的な研究にシフトしたわけです。すると学生がとても喜んでくれ、大人気のゼミになったんですね。

それをしばらくやっていましたが、15、6年前に学長から「リベラルアーツ学科(後に学部に昇格)を立ち上げよう」という話があって、私が初代学科長(後に学部長)になりました。リベラルアーツは一言で言えば全人的な人間力を育む学部です。私は英語専攻の学生を受け持っていましたが、そこには日本語専攻の学生も受け入れることにしました。両方の学生が一緒に調査、いわゆるアクティブラーニングも行い、子どもたちの言語の獲得過程の研究に乗り出したんですよ。

その時、玉川大学に「赤ちゃんラボ」という研究室を作って、そこに親子で来てもらい研究ができたらもっと楽しいだろうし、成果も上がるかなと思ったのです。これまでに1500~1600人のお母さんがいらしてますが、日本語が母国語である被験者を相手にできるので研究の速度がとても上がりました。それまでのように英語の子どもたちを相手にしていると被験者が限られますが、母語なので何百人もいる。そしていろいろ調査を実際にやっていったら、日本語の獲得の過程と英語の獲得に共通点がとっても多いと気がつきました。

それで母国語の日本語獲得のプロセスを英語の習得方法に取り入れたら、中学生でも小学生でももっとすんなりと英語が覚えられるのではないかと考えました。具体的には、リベラルアーツ学科を立ち上げた当時、「児童英語」という概念をドンと打ち出して、「子どもたちはこんなふうに学ぶから、こんなふうに教えてみようよ」と、学生と一緒に研究していきました。