だいじょうぶだよ、紙はなくならない
エフェメラといえば、牛乳瓶のフタについてのコラムがおもしろい。銭湯や駅のスタンドなどで飲むコーヒー牛乳やフルーツ牛乳のフタである。どれも文字がぎゅうぎゅうに詰め込まれ、シンプルで似ている。実はこのフタのデザインには細かな規定があるという。日本乳容器・機器協会という組織が管理していて、大きさと記載項目は規約で決まっている。必要項目は11もある。印字する大きさも万人に見やすいように、奇抜なことはできないとのこと。文字の色がほとんど青や赤など一色使いなのは、コスト削減のため。一時は3、4色がはやったこともあるらしい。
インターネットの普及で、紙は消えるといわれて久しい。確かに、書籍の販売は右肩下がりだし、雑誌や新聞も購読者が減っている。
本書が生まれた背景にも、そうした危機感があったという。本書は、著者が06年に出した『かみさま』(ポプラ社)を底本に大幅に加筆・修正したものだが、10年前の出版時の心境を、「ほんの少し、紙の本がなくなるのではないかという不安や焦りが心の隅にあった」(本書のあとがき)と吐露している。しかし、10年ぶりに再取材した現在は、「もっと穏やかで安らいだ気持ちでいる。だいじょうぶ、なくならないよと胸を張っていえるくらいに気持ちが強くなっている」という。「紙の特性が生きるもの、デジタルの特性が生きるもの。上手に使い分けていけばいいのだ」と。
確かに不思議なことに、いま地方の小冊子やフリーペーパー、リトルプレスが活気を見せている。デジタルにはない紙のぬくもり、優しさが見直されているのだろうか。IT技術の発達で、誰もが簡単に印刷物をつくれるようになったという技術的な後押しもあるだろう。筆者も、だいじょうぶ、紙はなくならないと思っている。