さて、加盟国がEUを離脱した前例はないが、EUの基本条約であるリスボン条約の50条に離脱の手続きについて規定されている。それによれば、当該国が欧州理事会(EUの最高協議機関)に離脱の意思を通告することから離脱手続きは始まる。その後、欧州委員会と脱退協定を締結するための交渉を行う。合意した脱退協定が欧州議会で承認され、さらに欧州理事会で承認されれば、脱退協定の発効日を以て晴れてEU離脱となり、離脱国にEU法は適用されなくなる。また、交渉が難航して脱退協定が締結できなかった場合は、離脱通告から2年でEU法は適用除外となる(全加盟国の同意で延長可能)。つまり、EUを離脱するには最低でも2年以上かかるわけだが、イギリスはまだ離脱通告すら行っていない。通告をしなければ離脱の手続きは始まらないのだ。
通告をダラダラと引き延ばしてEUに留まり続けるという道筋もなくはないが、混乱の拡大を危惧するEU側はイギリスに対して「離脱するならさっさと出ていけ」と突き放している。イギリスは自国通貨のポンドを使っているし、域内の自由移動を保証するシェンゲン協定にも加入していない。すでに特権的な立場にあるわけで、「離脱をちらつかせるイギリスにこれ以上いいとこ取りはさせない。離脱するなら勝手にすればいい。我々は27カ国で結束していく」というのがEUの断固たる姿勢なのだ。
イギリスとしては粛々と離脱手続きに入るか、もしくは国民投票の結果を覆す逆転シナリオも考えられる。国民投票はキャメロン前首相が約束した公約にすぎず、その結果に法的拘束力はない。法的な拘束力があるのは議会で決まったことである。
私がイギリスの首相だったら議会にこう呼びかける。
「国民投票の結果は尊重されなければならない。しかし、これからあらゆる情報を取り寄せて、イギリスにとって何が得策なのか、選良である我々でもう一度議論しようではないか」
議論のプロセスはすべて国民に公開して、離脱すべきか残留すべきか、議会で結論を出す。そのうえで解散総選挙を行って国民の審判を仰ぐ――というシナリオだ。これは決して絵空事ではない。