2つ目は今回の国民投票だ。キャメロン首相は3年前に国民投票の実施を表明して、「我々保守党が勝ったら、これをやります」と昨年の総選挙で公約に掲げた。つまり法律にもない国民投票を政権延命の道具に使ったのだ。
キャメロン首相としては住民投票や国民投票を約束してガス抜きすれば、最後は“良識的”な結論に落ち着くという甘い読みがあったのだろう。スコットランドの住民投票では現状維持派がきわどく上回ったが、今回の国民投票は完全に読み違った。
残留派のキャンペーンではジョン・メージャーやトニー・ブレアら歴代のリーダーを総動員して残留のメリットを説き、中央銀行の総裁までが「(離脱の)経済的な損失は計り知れない」と訴えた。しかし政界や財界のエスタブリッシュメントが「離脱なんてバカな選択はありえない」と口を揃えるほどにエリート支配に対する反発が強まって、離脱派支持に傾いた側面もある。
キャメロン首相の3つ目のミステークは国民投票の結果を受けて、すぐさま辞任を表明したことだ。蒔いた種は自分で刈り取るべきなのに、EU離脱に向けた舵取りを投げ出してしまった。ただし、議会を解散(議員の3分の2の賛同が必要)しなかったのは賢かった。解散すれば総選挙だが、解散しなければ保守党は政権を維持したまま、後継者を決められるからだ。
投票結果を覆す逆転シナリオはありうるか
当初、有力な後継候補と目されていたのは離脱派を主導してきたボリス・ジョンソン前ロンドン市長だった。しかし側近の裏切りにあって、党首選への出馬を断念。結局、党首選を制したテリーザ・メイ前内務大臣が新首相に就任した。マーガレット・サッチャー以来26年ぶり、2人目の女性首相の誕生である。
メイ首相は国民投票ではEU残留を支持していたが、首相就任後は国民投票で過半数を得た「離脱」を推進する考えを示し、組閣で離脱派のボリス・ジョンソン氏を外務大臣に任命した。「離脱を成功裏に進めたい」としながらも、「EUとの交渉戦略を策定するために時間が必要」として、年内は離脱手続きを開始しないとの立場を新首相は表明している。