このように地デジにまつわる環境を俯瞰して見ると、導入を決定した7~8年前とは市況も状況もまるで違ってきていることがわかるだろう。それを頑なに勝利を信じて邁進しようとする総務省など、さながら「インパール作戦」(歴史的敗北を喫した旧・日本陸軍の最後の作戦)の泥沼に両足を突っ込みつつある状況にあるといえる。

今後、1年以内に「アメリカもやめたんだからやめようや」という正論が政治論議に上がってくるはずだ。総務省も最初は抵抗するものの、いつまでも進軍ラッパを吹けない。

そうなると次に何が起こるか。2つのことが考えられる。

一つは、予算を組んでコンバーターを支給する。だから現時点で地デジ対応テレビを買わないで済ましている人は、もうちょっと待ったほうがいい。

もう一つは、両論併記で当面はアナログと地デジを並存させる。ただし家電メーカーはアナログのテレビ受像機を早晩売らなくなるだろうから、現存している受像機が自然死するのを待つ。となると、受像機は意外に長持ちする家電製品だから、向こう10年ぐらいはアナログ放送を続けることになる。だが10年もすれば、当初喧伝された地デジの効果もなくなり、デジタル情報の一部としてインターネットに完全に取り込まれてしまう――。

「放送と通信の融合」などという悠長な話ではない。放送は通信にのみ込まれるのだ。そのとき第二東京タワーはバベルの塔よろしく、テレビ業界の墓標としてさぞかし立派な観光スポットになっていることだろう。

(小川 剛=構成)