実際、日本が猿真似してきたご本尊のアメリカは、地デジへの完全移行を延期することになった。実はアメリカでは、今年2月17日にアナログ放送が終了する予定だった。しかし、2月4日の下院議会でアナログ放送停波の延期法案が可決され、4カ月先送りすることになったのだ。
先送りの原因は、アナログ放送だけを受信している世帯を支援するために行っていた(デジタル波をアナログ波に切り替える)コンバーター購入クーポンの発行が財源不足で間に合わなくなったから。目下のアメリカは、オバマ政権誕生後も景気対策に追い立てられている状況で、四カ月後に仕切り直せるかどうかも微妙である。
本家が先送りしたとなると、日本もやりにくい。きっと民主党あたりの議員が勢いに乗って先延ばし論議を持ち出してくるだろう。地デジ完全移行をめぐる現実が白日の下に晒されて砂上の楼閣ぶりが明らかになれば、カウントダウンはストップせざるをえないだろう。
また地デジ狂想曲が繰り広げられている一方、まったく別の現象も進行してしまった。ブロードバンドの広がりとインターネットの急速な普及である。
まずはブロードバンド。
光ファイバー回線を使ったNTTのブロードバンドサービス「フレッツ光」は、契約者数が1000万件を突破した程度で普及目標には達していないが、それでも最終的には「fiber to the home」で、留萌にも沖永良部島にも到達することになる。日本の光ファイバー網はNTTがほぼ独占的に支配しているが、その反対給付として、全国津々浦々に同じサービスを提供しなければいけないというシビルミニマムの縛りがあるからだ。
NTTの光回線独占を批判していたソフトバンク社長の孫(正義)さんも、最近はだいぶ態度が変わってきて、回線敷設コストの一部を共同負担してもいいから、光フレッツを自分たちにも売らせろと言い出した。
これは画期的なことで、光ファイバーを全国に張り巡らせようという動きが通信業界から出てきたのだ。通信会社やネットコンテンツ会社には、さまざまな映像コンテンツをテレビ電波に頼らないでお茶の間に届けたいという強い欲望がある。光回線が全国的に整備されれば、それが可能となる。
また、地デジはUHF帯で放送されるので、アンテナ受信する場合にはU HFアンテナを設置しなければならない(都会に多いVHFアンテナでは地デジは映らない)。これも光ファイバーなら、地デジ対応の受信機もアンテナも要らない。コンバーター一つで既存のテレビやパソコンにつながるし、デジタル対応化したケーブルテレビ(CATV)経由で地デジの番組も見られる。