思ったよりも厄介なアンテナ受信の方法

すでに政府は、地デジ普及の切り札として5000円前後の低価格コンバーターの開発をメーカーに要請し、アメリカ同様、低所得世帯に支給する姑息な手段を考えている。ところが前述したように、コンバーターだけでは地デジは受信できない。たしかに、アンテナが受信したデジタル信号をコンバーターがアナログに変換すれば既存のアナログテレビでも見られる。だがコンバーターより高価なアンテナは、自前で設置しなければならないのだ。

しかも地デジのアンテナ受信というのが厄介な代物なのだ。

たとえば難視聴エリアというのは田舎の山奥だけではなく、高層ビルやマンションに囲まれた都会にもあり、全世帯の2割強とされている。アナログ放送なら電波状態が悪くても、アンテナが多少ひん曲がっていても、画質はともかく何とか映ってくれる。だが地上デジタル波は違う。障害物に弱く、アンテナの角度などシビアな条件をクリアしないとまったく映らない。

地デジが見られない場合には、光回線を使うなどしてケーブルテレビを引くか、どこか中継ポイントに共同アンテナを立てるしかない。

しかし、受信の障害となる建物の所有者への交渉など、地域でまとまって問題を解決しようにも、「ウチはもう光ファイバーを引いているからいいわ」という世帯も出てくるから、足並みがなかなか揃わない。マンションなどの集合住宅でも、ケーブルの引き込みや共同アンテナの改修・設置に管理組合が合意しなかったり、費用負担をめぐって揉めるなど、遅々として進まないケースがかなり出てくることだろう。

また、せっかく話がまとまったとして、東京近郊では第二東京タワーの問題もある。

第二東京タワーが完成して港区から墨田区に地デジの送信元が移ったら、アンテナの角度を調整し直さなければならない。それだけでなく、障害物の関係でアンテナの角度をどう変えても映らなくなる世帯が、相当数出てくることが予想されている。第二東京タワーの完成は11年12月が目標で、開業は早くても翌12年。地デジ完全移行日とのタイムラグは、さまざまな問題を引き起こす可能性がある。