「せいぜい3万人がいいところ」(長井氏)と思っていた株主数も05年、10万人を超えた。ただ、単元株のくくり直しや株主優待の導入は、他社でもよく使われる手段である。カゴメが異例ともいえる規模で株主を増やした背景には、やはり長井氏の数々の工夫があった。その1つが優待商品発送のタイミングだろう。

「発送の翌日、ヤフーの掲示板をチェックしたら、さっそく写真入りで優待商品を紹介する書き込みがありました。ところが、それを見た遠隔地の株主から『うちはまだ届いていない。どうなっているのか』というクレームを何本もいただいた。たしかに同じ株主なのに遅れて届くのはいい気分がしないはず。そこで宅配業者と相談し、1週間前までに荷造りを終えて拠点に配送。同日に一斉に配達してもらうことに。これは評判がよく、いまでも続けています」

記者向けの発表と違い、社長はゆっくり話すことを心がけているように見えた。商品紹介ブースでは社員が丁寧に説明する。会場には新商品が試飲できるコーナーも併設され、「ラブレ」など健康維持に効果のあるものが人気だった。

記者向けの発表と違い、社長はゆっくり話すことを心がけているように見えた。商品紹介ブースでは社員が丁寧に説明する。会場には新商品が試飲できるコーナーも併設され、「ラブレ」など健康維持に効果のあるものが人気だった。

優待に関しては、詰め合わせる商品のアイテム数もこだわっている。ある年、高額商品を入れたために優待商品が5アイテムに減ったことがあった。ところが、同封のアンケートを読むと、ブーイングの嵐。そのため現在は7アイテムを基準に商品を選んでいる。

一つ一つは小さな軌道修正かもしれない。しかし、「こうした積み重ねがファン株主づくりの秘訣」と言う。

「朝、出社してすぐヤフーの掲示板を見るのが日課です。正直、反応を見て落ち込むこともありますよ。ただ、そうしたナマの声が逆に改善のいいきっかけになる。いいアイデアだと思っても、やりっぱなしはダメ。株主の声を絶えず検証して次に活かしてきたからこそ、10万人という目標が達成できたのだと思います」

ところで、個人株主が増えたことによる弊害はないのか。上場企業のM&Aが珍しくない昨今、気になるのは敵対的買収をかけられた場合の個人株主の反応だが、「いくらでTOBがかかれば株式を手放すかを調査したところ、1.5倍でも売らないと回答した株主が78%に達しました。カゴメの株主は非常にロイヤリティが高いので不安はありません」。

もちろんそれに胡坐をかくつもりはない。株主数が14万人に達した現在は、株主拡大を自然増に任せ、ファン株主のロイヤリティをさらに高める施策に力を入れている。例えば07年から、試食中心だった株主懇親会を、株主との対話を重視する株主フォーラムへと衣替えしたのもその一つだ。「そのほかにもいろいろとアイデアは温めている」と不敵に笑う長井氏。会社員人生の大半をIR(投資家向け広報)活動に費やしてきたベテランが、次に何を仕掛けるのか。今後も目を離せそうにない。

(増田安寿=撮影)