これでは何も伝わらない。やはり、面と向かって話さなければだめだ。やり方を変えよう。私は時間が許す限り支店を回り、現場の若手や中堅社員15人ほどに集まってもらって、お弁当を食べながら双方向で議論するようにしました。膝を突き合わせると、彼らも私や私の考えを理解しようとしてくれます。仕事のやり方を変えなければいけないんだ、と自発的に考えるようになってくれるわけです。
この座談会を2年かけ、100以上の支店で実施しました。もちろん、全員と直接話せたわけではありませんが、参加した社員には、参加していない社員へ熱を持って語るよう伝えました。
変革の意識が浸透したことで、現場発のアイデアも出てくるようになりました。その一つが「相談型セミナー」です。それまでは、こちらが売りたい商品を買ってもらうためにセミナーを開催していましたが、やり方を変え、講師の話をお客様と営業担当者が隣で聞く形にしたのです。セミナー後にはお客様と担当者が一緒に、そのお客様に合った資産運用の方法を話し合う。こうした新しい発想が出てきたことに、手ごたえを感じています。
座談会の経験を通して、自分の想いを伝えるには工夫が必要だと実感しました。10人くらいのチームならば、出身大学も社歴も、趣味も家族構成も、お互いに知っているので理屈がなくても伝わります。でも、お互いにバックグラウンドを知らない関係では、「黙って俺についてこい」は通じない。誰が聞いても「なるほど」と思える論理を組み立てなければなりません。
カタカナ言葉を排除し、平易な言葉を使うことも大切です。そして、その内容を繰り返す。そうすることで、相手に誠実さが伝わり、信頼関係が生まれるのです。
想いを伝えるときに重要なのは、自分を信頼してもらうことと相手の立場を考えること。相手がお客様でも社員でも、コミュニケーションの基本は変わりません。
▼永井浩二流・相手を口説く3つのポイント
1. 曖昧にしない、ごまかさない
2. 相手への興味を伝える
3. 苦手な相手も好きになる努力を
1959年、東京都生まれ。81年中央大学法学部卒業後、野村証券入社。2012年4月社長、同8月より野村HDグループCEO兼務。