――あがり症で、プレゼンなどで自分の順番が近づくと、心臓がドキドキして声が震えてしまいます。

緊張するのは、ごく自然なことです。人間も動物の一種ですが、自然界の動物は、草原を歩いているとき、向こうから別の動物が来ると、食べられてしまうことを恐れて、緊張します。どのような動物も、全神経を使って、相手が自分に危害を加えないかどうか認識しようとする。緊張というのは、未知のものに対するときに生じる自己防衛反応なのです。

――聴き手の人数が多いとさらに緊張してしまうんですよね。1対1ならそれほど緊張しないのですが。

1対1で話すときと、1対100で話すのとは、同じだと思ったほうがいいと思います。相手の数が多くても、相手が1人のときと同じように、聴き手の表情をよく見て、自分の言葉が相手に刺さっているかどうかを確認しながら話すのがよいでしょう。聴き手がキョトンとした表情をしていたら、言い方を変えてみる。聴き手がウンウンうなずいてくれて、伝わっていることがわかれば、話す側もリラックスできます。

――話し始める前にあがってしまって、表情を見る余裕もありません。

最初のうちは仕方がないですね、こればかりは。慣れるしかありません。

たとえば、女性の前では緊張して話ができないから、合コンに行きたくないという男性が多い。どうすればいいと思いますか?

毎日、無理やり合コンに行けばいいのです。そして多少は痛い目に遭ったりするうちに楽しいこともあって、だんだんと慣れていくのです。

世の中に場数を踏まないであがり症を克服する方法はありません。逆に言えば、場数さえ踏めば多くの人は克服できるのです。かつて日本のサッカーが弱いのは国際戦の経験が少ないからだとよく言われていました。実際に、場数を踏むようになったら強くなったでしょう。

どんなことでも練習しないと上手くなりません。苦手であれば人一倍リハーサルする。あとは、恥をかきながら慣れていくしかありません。

――あがるような場面はなるべく避けてきたかもしれません。

苦手だと思ったら、むしろ進んでやるべきでしょう。人前で話すことに限りませんが、仕事はスポーツと同じだと思います。列の後ろに回って、極力、自分の順番が回ってこないようにするのか、横入りしてでも「もう1回やらせてほしい」とチャレンジするのか。どちらが上達するかは、言うまでもありません。

ただチャレンジするとは言っても、苦しくて体に異変があらわれるぐらいイヤなら、「すみませんが、この仕事は向きませんから他の業務に変えてください」と、素直に上司に話すほうがいいでしょう。

Answer:苦手なことこそ、場数を踏むよう心がけましょう

出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険会長兼CEO

1948年、三重県生まれ。京都大学卒。日本生命ロンドン現法社長などを経て2013年より現職。経済界屈指の読書家。
(構成=八村晃代 撮影=市来朋久)
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