もともと人間の頭はそう簡単には切り替えられないようにできています。まずは仕事を家に持ち帰らないことを心がけましょう。

――やはりそうですか。集中して速く仕事を終わらせるコツってありますか?

集中するためには、「速く仕事を終わらせよう」と常に意識することです。僕は何をやるにしても、「どうすれば速く終わるか」を一所懸命に考えます。

――出口さんは、スピード狂なんですね。

スピードといえば、前の会社の係長になる前の研修を思い出しました。

研修を受けている僕たちにたくさんの未決の書類が入ったボックスが渡され、「いまは金曜日の2時で、3時にお客様のところへ行かなければなりません。この仕事を時間内に処理しなさい」というテーマが与えられた。僕は書類の量をジッと見て、上から順番に30分ちょっとで全部処理しました。

そうしたら、「仕事の速度も素晴らしく処理の結果も優秀だけれど、やり方が間違っている」と。正しいやり方は、「全部をザッと読んで優先順位の高いものから処理する。それが管理者に求められる能力です」と説明されました。

僕は「すべてを時間内に処理することがマスト。量を目で測ったら、十分処理できると判断したので順番にこなしたまでです」と講師と争いました。講評には「優秀だけれど、頑固すぎる」と書かれた。

――出口さん、若い頃は問題児だったんですね。

見方によってはそうかもしれません。ただ仕事が速かったおかげで、オンとオフは完全に切り替えることができた。

――私でもすぐに実践できる方法があれば教えてください。

最も手っ取り早くて簡単なのは、「家に仕事は持ち帰らない」などと紙に書いて、見えるところに貼っておくことです。

――それ、本当に効果あります?

はい。紙に書いて貼ることで、自己暗示をかけることができます。上司も見ます。紙に書いて貼るのがいやなら、フェイスブックにアップしたり、ツイッターでつぶやいたりしてもいい。職場の人に言いまくるのもいいでしょう。どのような方法でもいいので、仕事とプライベートを切り分けられるよう、少しずつ自分に言い聞かせていくのです。

――なるほど。出口さんも、紙に書いて貼ったご経験があるのでしょうか。

僕も初めて部下ができたときにデスク近くの壁に「元気に明るく楽しく」と紙に書いて貼っていました。

貼るだけで職場の誰もが目にすることができるし、何より部下も「この人、本気だ」と思うはずです。

Answer:「切り替える」と宣言し、紙に書いて貼りましょう

出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険会長

1948年、三重県生まれ。京都大学卒。日本生命ロンドン現法社長などを経て2013年より現職。経済界屈指の読書家。
(八村晃代=構成 市来朋久=撮影)
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