人材育成に関わってきた時期が長いせいもあり、キャリア関連の本も数多く手にしてきた。仕事の苦労を乗り越えて成長経験をすることの重要性を説いた『仕事で「一皮むける」』は、辛く大変なときこそ自分が成長している瞬間なのだと気づかされる。また、キャリアの選択肢の多様性を肯定した『スローキャリア』は、結婚や育児と仕事の両立を常に意識している女性にとっても、非常に参考になる内容だ。なお、キャリア全般の心理学理論を知るためには『キャリアの心理学』を読んでおくことを勧めたい。

仕事に生かせる内容であり、しかも共感し心が豊かになるのは、『女たちのジハード』と『木のいのち 木のこころ』である。後者には人材育成、配置、技術の伝承など、組織の存続にとって不可欠な要素が盛り込まれている。法隆寺再建の過程を軸に、木材調達のために山一つを買い、斜面の方角と建物の方角を整合させながら使う木を選ぶといった、木の癖をいかし、1000年先を見て建物を建てるという偉業の根底にある思考法に圧倒される。

読書は知識を得るだけでなく、心を元気にやわらかに保つ効用もある。『仕事に活かす集中力のつくり方』はその一つで、自分の心持ちは自分が決めてパフォーマンスを上げる方法について読むうち、心が元気になっていくのを感じることができる。『やわらかに生きる』は、吃音の論理療法の様子を通して「~ねばならない」ではなく、「~だといい」「~をしたい」と視点を変えると気持ちも発想も変わることがわかり、たとえ壁にぶつかってもやわらかな心を持てば乗り越えられると思える内容だ。『演劇入門』は演劇における対話について言及した本である。言葉とその意味するところが一体化している西洋とは異なり、言葉と意味が必ずしも一致しない日本語での対話は成立しうるのかを、演劇という場を通じて問うている。これは日頃自分が発している言葉を、周囲が意図した通りに受け止めているかどうかを考えるうえで参考になる点が多い。

かつての高度経済成長期には、ボスマネジメント型のリーダーが活躍したが、現在のような不確実性の高い時代では、現場の意見とメンバーの力を引き出す力を持ったリードマネジメント型のリーダーが求められる場面が増えている。心理学やコミュニケーション関連の本におのずと手が伸びるのも、そうした時代背景の中で必要とされるリーダー像を、私自身が模索している最中だからかもしれない。