義援金は、住宅の全壊にいくら、半壊でいくら、死亡者に対してどれくらいという配分基準が決められるのが一般的で、浸水の被害はどんなに深刻でも政府の復興計画の対象外となっていた。床上浸水、床下浸水に見舞われた方々を支援する法律がなかったのである。浸水被害に地元が苦しんでいるという情報は、地域の自治体から官邸まで事前に上がってきており、関係省庁もいつでも必要な対策を実施できるような準備は進めていた。しかし、現行法で支援できない場合、トップリーダーが自ら決断することが必要になる。

総理が動くということはこのような重大な決断を行う場合に限られるべきだ。政府としての復興計画を策定し、その計画の実施対応がどの程度進んでいるか、現地の自治体と霞が関の官僚が書面上でまとめた計画だけではケアしきれない部分があるのかどうかを、総理自身で最終確認をするために、現地に出向くのである。総理が現地に入ることは、被災地にとって朗報が届くということでなければならないのだ。

安倍晋三総理は、4月23日に熊本に入り視察し、その場で、「4月25日に、激甚災害指定を閣議決定する」と表明した。この流れであれば、国民も総理が熊本へ何をしにいったかが明確であろう。これが正しい対応である。

これを機会に、政治家やメディア、そして芸能タレントが現地に入るのも、もう少し考えてはどうだろうか。彼らが現地に入っても、それだけでは何のメリットもない。少なくとも自衛官と同じように、寝袋や自前の食料を持ち、絶対に被災地に迷惑をかけないことを前提にしてほしい。とりわけテレビカメラを引き連れて、政治家や芸能人が炊き出しをしているのは、間違いなく売名行為だ。岡田克也民進党代表が安倍総理と同じ時期に熊本入したが、やはり被災地を見るだけで「頑張ってほしい」との言葉と与党への批判ぐらいしか残せていない。権限がないのだから当然だ。普段の活動でうだつがあがらないのはわかるが、被災地では陰徳を積んでほしい。

2016年5月のほぼ同時期に発売される「ヒト・モノ・カネを自在に操る『孫子の兵法』」(プレジデント社)、「権力の秘密」(小学館文庫)では、「使えない方法論は無意味」という絶対前提をもとに、「成果を得る、評価を得るため」の行動論を丁寧に記したつもりだ。ちょっとしたことで人の感情というのはプラスにもマイナスにも爆発するものだ。では、どう行動すべきか。もし、興味があればお読みいただきたい。

逆に私が賞賛したいのは、アイドルグループ・スマップの中居正広さんだ。中居さんは、東日本大震災のときに、スマップとして4億円以上の寄付をしたうえで、極秘で福島の原発から60キロメートルの被災地を訪れ、炊き出しをした。今回の熊本地震でもカメラを引き連れずに炊き出しを行っていた。あまりにも有名人なので、途中でバレてしまったようだが、その心意気に被災者は勇気づけられるのだ。

日本には、誰かに評価されたいわけではないのに行動できる人物がいる。私は目頭が熱くなり、涙がでそうになった。

(文中一部敬称略)

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