ビジネスで完全に主導権を握ること

アメリカから「日本の黒幕(political-fixer)」と名指しされた、「日本一ヤバイ男」が教える握手とは何か!

拙著『孫子の兵法』が発売された。年甲斐もなくドキドキしている。もう一冊、プレジデント社からの私の初めての単行本を文庫化した『権力の秘密』も同時に発売となった。長年、この連載で読者のみなさまに支えてもらったおかげだ。編集部を通して伝えられる読者からの声援にはいつも感謝の念しかない。

『孫子の兵法』飯島勲著 プレジデント社

秘書時代にもペンネームを使って本を出したことはあったが、私自身の名前でこれほど多くの本を出版できることになるとは、当時はまったく想定していなかった。未来のまったく見えない現場で、ただただ何かに取り憑かれたように仕事をしていた日々だった。

「孫子」の「軍形篇」に次のような一節がある。

「善く戦う者の勝つや、智名なく、勇功なし」

「真の戦上手は他人の興味を引かない簡単な勝ち方を選ぶ。だから、その智謀は人に知られず、勇敢さも賞賛されない」という意味だ。今でこそ、こうして自著を出版し、テレビなどで自らの考えを伝える機会も増えたが、「黒子に徹する」ことが秘書の美学であるという考えは変わらない。孫子の言う「善く戦う者の勝つや、智名なく、勇功なし」は、私の理想なのである。

そして同じ「軍形篇」のテーマとなっているのが、「実際に戦う前の体制づくりが勝敗を分ける!」ということだ。まさしく、選挙における秘書の仕事ではないかと思う。

「昔の善く戦う者は、先ず勝つべからざる(負けないための準備)を為して、以て敵の勝つべき(敵に勝てるタイミング)を待つ。勝つべからざるは己に在るも、勝つべきは敵に在り。故に善く戦う者は、能く勝つべからざるを為す(負けないようにすることはできる)も、敵をして必ず勝つべからしむること能わず(必ず勝つことはできない)。故に曰く、勝は知るべくして、為すべからず(勝つ方法はあるが、実際に勝てるかはわからない)、と」

「勝つべからざる」「勝つべき」「勝つべからしむる」と次々に出てきて、誰が勝ったのか、負けたのか混乱してしまうかもしれない。中高生たちが漢文や古典を嫌いになるのはこういう点からではないかというのは、要らぬ心配だろうか。

孫子が言いたいのは、要するに、まず守りを固めて「不敗」の体制を整えたうえで、相手の戦力を見極め、隙を見計らって攻めに転じて勝とうということだ。

多くの人に注目されるような派手な勝ち方というのは素人くさい。特に人目を引かないほど自然に勝利に導くことが、真の智謀といえるのだ。誰にも賞賛されないかもしれないが、そんなことはどうでもよいのである。