ケアの後は「感情の固定」を行う。すこし大げさに「楽しかったですね」と伝え、いい時間を共に過ごしたことを振り返る。認知症が進んでも感情記憶は保たれている。「名前はわからないけど、いい感情を残してくれる人」という形で覚えてもらえる。
そばを離れる前には「再会の約束」をする。記憶ができない人だとしても、「この人はまた来てくれるんだ」という感覚を感情記憶にとどめてもらえる。その場で具体的な日時をカレンダーに書き込むといい。
いま介護現場では高い離職率が問題になっている。背景には待遇の悪さや人手不足だけでなく、効率を重視した強制的なケアへの後ろめたさもあるのではないか。日本ではまだ始まったばかりだが、フランスではユマニチュードの導入が進んだ結果、介護職員の離職率も低下したという。伊東さんは「患者だけでなく、介護者のためにもなる」と話す。
「これまで介護現場では『相手の立場に立つことが重要だ』と言われてきましたが、具体的な方法がわからなかった。一方、ユマニチュードは誰にでも習得できる技術。患者さんからの拒絶に悩んでいる介護者にとって、助けになるはずです」
▼「ユマニチュード」4つの柱
(1) 見つめる――同じ目の高さで、正面から。認知症の人は視野が狭いため、様子を見ながら20センチまで近付く。0.4秒以上の長さが重要。
(2)話しかける――やさしく、穏やかな声を使う。前向きな言葉で、会話を楽しんでいることを伝える。相手が黙っていても声をかけ続ける。
(3)触れる――広い面積で。ゆっくりと、やさしく、一定の重さをかけて、手の平全体で触る。上からつかんだり、つまんだりはしない。
(4)立つことをサポート――体は持ち上げず、腕もつかまない。自分の力で立つことを助ける。40秒立てれば、清拭など立位でのケアができる。
▼心をつかむ5つのステップ
(1)出会いの準備――まず3回ノック。3秒待ち、再び3回ノック。3秒待ち、1回ノックしてから部屋に入る。返事があれば次のノックは不要。
(2)ケアの準備――目が合ったら2秒以内に話しかける。同意が得られるまでケアの話はしない。3分以内に同意がとれなければ一旦諦める。
(3)知覚の連結――「見る」(笑顔)、「話す」(穏やかな声)、「触れる」(やさしい触れ方)のうちの2つを同時に行う。効率より相手の心地よさ。
(4)感情の固定――「たくさんお話できて楽しかったです」と、すこし大げさによい時間を共に過ごしたことを振り返る。前向きな感情記憶を残す。
(5)再会の約束――「また来ますね」と握手をして別れる。具体的な日時をカレンダーに書き込む。「約束してくれた」という感覚が重要。
1988年鳥取大学大学院博士課程修了。2001年より現職。日本認知症予防学会理事長、日本老年精神医学会理事。
2008年東京医科歯科大学大学院博士後期課程修了。1999年より現職。