「加齢による物忘れ」と「認知症による物忘れ」は全く違う。職場の同僚の発言に「?」となったら、迷わず検査を受けさせよう。「自分はボケてない」との思い込みが「手遅れ」を招くのだ。

認知症800万人今や、誰もがなりうる病気に

久しぶりの帰省時にキッチンのシンクを見ると、真っ黒に焦げた鍋。

「どうしたの、これ」
「洗濯したり掃除したり、忙しかったのよ……」
「おふくろも年を取ったなぁ、ははは」

よくある一コマだろう。だが、そのままにしておくと、後に大きな後悔につながるかもしれない。

「今は認知症800万人時代と言われています。高齢者人口の15%が認知症。そして認知症の一歩手前に当たる軽度認知障害(MCI)が28%。誰でもなりうる病気なんです」

そう話すのは、国立長寿医療研究センター内科総合診療部長で老年病専門医の遠藤英俊氏だ。

国立長寿医療研究センター 内科総合診療部長 遠藤英俊氏

認知症、物忘れ、アルツハイマーなど、いろいろな言葉があるが、まずはそこから整理しておこう。

遠藤氏によれば、「認知症は脳の物質的な異常による記憶障害(物忘れ)」だ。

つまり「最近、物忘れがひどくてね」「ああ、年だからね」と簡単に受け流すわけにはいかないのだ。

しかし、ちょっと忘れてしまうことは日常、よくある。そのすべてが認知症ではないようだ。

「物忘れには、加齢が原因のものと認知症によるものがあります。認知症には体験した記憶がすっぽり抜け落ちる、物忘れの自覚に乏しい、物忘れを指摘されると取り繕おうとする、判断力が低下する、日常生活に支障をきたすといった特徴があります」

遠藤氏の解説をまとめると、次のようになる。

【認知症による物忘れ】
・ある体験をまるごと忘れる
・判断力が低下する
・日常生活に支障がある
・物忘れの自覚に乏しい
・見当識(現在時刻、居場所など自分が置かれている状況の認識力)に障害がある
・物忘れに対して取り繕い行動が見られる
・何かが見つからないと、誰かが盗ったと言う加齢による物忘れ
・体験の一部を忘れる
・判断力の低下はない
・日常生活に支障なし
・見当識障害がない
・物忘れに対して取り繕いはない
・探し物は、自分で探そうとする

取り繕いとは、例えば日付を聞かれてもわからず、「今日は新聞を読んでこなかったから……」などとごまかす行為だ。あるいは、料理ができなくなったのをごまかそうとして夫に「ねえ今日は外に食べにいこう」などと言いだす「すりかえ」が起こる。これが取り繕いだ。