そこで浦上教授が提案しているのが1分間でできる「簡易スクリーニングテスト」(表を参照)だ。専門知識がなくても、認知機能を簡単にチェックすることができる。また早期発見のために「物忘れ健診」を行う自治体も増えている。
「アルツハイマー型認知症には現在4つの薬があります。服用することで症状が改善したり、進行が緩やかになったりします。近い将来にはアミロイドβタンパクに直接作用する『根本治療薬』の登場も期待されています。しかし開発が進んでいる根本治療薬も、あくまで初期の蓄積を解消するものであり、早期発見の必要性は変わりません。『認知症を認めるのは恥ずかしい』と思って検査を避ける人もいる。『心の病』や『不治の病』ではなく、専門医にかかれば十分に対処できることを、より多くの方に知ってほしい」(浦上教授)
浦上教授は10年以上前から鳥取県琴浦町で認知症予防活動を展開している。65歳以上の町民を対象に、「TDAS」というタッチパネル式の機器を使い認知機能を点数で判定。認知症の疑いのある人には専門医療機関を紹介し診断と治療を促す。正常ではあるが認知症の兆候がある「予備群」には生活習慣を指導する予防教室へ通うことを勧め、発症予防に取り組んでいる。
発症予防とはなにか。浦上教授は「認知症の患者さんに多いのは、テレビを見ながらうたた寝をする生活。脳に刺激のない生活はよくない。こうした生活習慣をあらためることで認知症を予防できます」と話す。
「調査の結果、認知症になりやすい人となりにくい人の傾向がわかるようになってきました。たとえば知的好奇心の強さ。いろいろなことに関心を持って常に頭を働かせていると神経細胞が活性化される。アミロイドβタンパクの蓄積で、脳の神経細胞が壊れたとしても、それを元気な神経細胞が補ってくれる。頭を使う創造的な行為は認知症予防に効果がある。俳句や短歌をつくる、絵を描く、囲碁や将棋もいいでしょう」