熊本地震で出ていた「事前シグナル」

では、今回の熊本地震の前の状況はどうだったのでしょうか。東海大学海洋研究所では3月24日のニュースレターで「九州北部で地震発生の準備が整ってきたと考えられる」という報告をしておりました。この報告では、熊本という言葉は入っておらず、予測としては不十分なものでした。しかし、大地震に大地が発するシグナルの一つを捉えたものであったと考えています。

この予測のベースとなったのが、東海大学の「地下天気図プロジェクト」(http://www.sems-tokaiuniv.jp/EPRCJ/)です。これは、地下の地震発生の状況を天気図のようにわかりやすく可視化して、地震活動予測を目指すものです。天気であれば、低気圧が近づくと雨の可能性があるのはご存知でしょう。また高気圧に覆われている時は良い天気です。地下天気図では、地震活動の異常を低気圧に例えています。

2015年9月16日の九州地方の地下天気図。地震活動静穏化領域(青い部分)がその後なくなったため、2016年3月24日付のニュースレターにおいて「静穏化が終了した後に地震が発生する可能性大」との予報がされていた。

特に、古くから知られている「地震活動静穏化」と呼ばれる大地震の前兆現象に注目しています。大地震の前には通常より地震活動が活発になるのではなく、逆に静かになる場合が多く、いわば“嵐の前の静けさ”とも言える現象が発生することが多いのです。上記のレポートでも、九州北部において地震活動静穏化が終了しつつあったことが「九州北部で地震発生の準備が整ってきたと考えられる」と結論付けた根拠となっています。

地震予知は決して夢物語ではありません。地震活動やGPS地殻変動、さらには地下水や電磁気データ等のビッグデータを適切に収集・処理・判断するシステムを構築する事により、射程圏内に入るものです。

予測の内容としては、たとえば「今週末は首都圏では地震発生につながる異常は観測されていません」、「東北地方北部では今後半月ほどはM7クラスの地震は発生しないでしょう」という安全宣言とも呼べる予測を毎週更新していくことが可能です。異常が検知された場合は「現在、A、B、C、D、Eの5項目の観測のうち、A、C、Dの3項目に異常が出ています。このような異常は過去10年間で1度だけ観測され、その時はマグニチュード6.5の地震が1週間後に発生しました」というような情報発信が現実的ではないかと考えています。

次に起こるかもしれない地震から人々の生命や財産を守るためには、「次はどこで地震が発生するのか」ということばかりに注目するのではなく、地震を「現行犯逮捕」するためのシステムを構築するのが現実的です。そしてそれは、現在の地震に対する知識をもってすれば可能なことなのです。また大地震はめったに発生しませんから、「今週は関西地方は大丈夫」といった安全情報のほうが一般の方には使いやすいかもしれません。我々はそのような情報発信を目指していきたいと考えています。

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