あるとき、私が何か言うたびに、「ふざけるな」という言葉で返すお客様がいたのですが、そのフレーズが出るたび「正」の字を書いて数えることで、気を紛らわすことができました。たまったポイントで何かもらえるわけではないけれど、罵倒を「自分に向けられた刃」ととらえず、「カウントの対象」ととらえれば、まともに受け止めずにすむのではないでしょうか。

それに怒られたことやクレームを受けたことは、全部記録に残しておくとあとで財産になるものです。そのときは一刻も早く忘れたいでしょうが、再び同じような事件があったとき、すごく役に立つ。

お客様から怒られたときだけでなく、上司に怒られたり、セクハラすれすれ発言にムッとしたりしたときも、記録をとるのはオススメです。たとえば「結婚しないの?」と1度や2度言われたくらいでセクハラホットラインに電話したりするのは、なんだかイタいOLになってしまう。だからみんな我慢していると思うのですが、でも心の中には着実に小さな傷が増えている。そこで「セクハラ発言集計シート」をエクセルで作成したりすると、「あれ、しょっちゅう言われてると思ったけど、そうでもないな」と気がついたります。しかも私は「あいつはセクハラ発言の記録をとっているらしい」という噂が広まって、いまでは何も言われなくなりました(笑)。

私たち電話オペレーターは基本的にお客様と1対1の関係になりますが、難しいクレームにはチームで対応することがあってもいいと思います。人によって得意なタイプと不得意なタイプがありますから。あるとき、とても優秀な先輩が珍しくお客様を怒らせてしまったことがありました。ところが電話を代わった新人がくだけた言葉遣いをしたところ、すぐにお客様の怒りがおさまったのです。どうやら先輩のソツのない礼儀正しさが、機械的な対応と感じられたようでした。そういう意味でもチームにはいろんなタイプがいるといいんじゃないでしょうか。

それに人間は20~30分も怒鳴っていると、体力が尽きて怒り続けるのが難しくなります。お客様1人に対してこちらは数人で対応すれば、相手が先に疲れるという利点もある。もちろんタライ回しはダメですが、いざというときに電話を代わってもらうためにも、常日頃から同僚を大事にして、協力しあえる土壌をつくるのが大事だな、と思います。

(長山清子=構成 工藤睦子=撮影)
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