在宅看護で患者さんにできることはたくさんある

世界的に医療のレベルは上がっていますが、現代医療は細分化が進みすぎて、体の部位や細胞で病気を見て、全人的には見なくなっています。痛みがあると痛み止めのお薬、不安が増したら抗不安薬、と患者はますます薬漬けになっています。ホリスティック医療だと、痛みは不安によって発生することが多く、不安の元となる事柄を見つけ出して解決することで、痛みを消そうと考えます。

患者さんが簡単に薬漬けになってしまうことに、現場の看護師も心を痛めています。かといって、看護師がヒーリングを習い、それを実践したくても、実施できる機会がありません。医療システムの問題もありますが、看護師たちは、常に人手不足で忙しく、業務に追われているからです。

ヒーリングの必要性を強く感じるようになり、退職して、自ら訪問看護ステーションを立ち上げることにしました。訪問看護にすると症状観察、リハビリなどをしながら、アロマセラピーやヒーリングタッチなどのケアも保険で行うことができるのです。

私が担当したある患者さんのことは忘れられません。彼女は末期のすい臓がんで病院から見放され、在宅医療になった80代の女性でした。退院時は腹水が張ってお腹も手足もパンパン、抗がん剤も利尿剤も効かない状態でした。ご飯も食べられず、ご本人もため息ばかり。医者に見放されたと落ち込んでいたのです。毎日訪問して入浴の介助などをしながら、アロマを使ったタッチなどのヒーリングをして、その方の気持ちに寄り添うようにしていました。すると、彼女は若い頃、気功を習っていたことがわかりました。ぜひ気功を教えてくださいとお願いしたのです。

徐々に彼女に変化が見えるようになり、「来てくれてありがとう」「親に感謝している」など、肯定的な言葉が出るようになりました。食事の量も増え、起き上がって絵を描くまでになりました。人が、“自分が誰かの役に立っている”と感じることは、生きる上でとても大切なことなのだと感じた瞬間でした。自分の社会的な役割を見出せたことで、彼女の目には光が戻っていたのです。

ヒーリングを活かしたこのような変化は、これまでの在宅看護の中でいくつも事例があります。アロマセラピーなど簡単に使えるものはひとつのツールとして、ご家族にも活用していただけます。香りで癒やしの空間ができますし、ご家族が患者さんに触れるきっかけにもなります。

ホリスティックケアと現代医療を組み合わせて上手に活用してください。訪問看護だと、保険でまかなえるので、経済的な負担も軽くすみます。患者さんにもご家族にも、ケアやヒーリングが、人生に希望をもたらすきっかけになればと思っています。

中 ルミ(なか・るみ)
国際ヒーリング看護協会理事長。ルミナス訪問看護ケアステーション、ルミナスホリスティックケアアカデミー代表。
千葉県医療技術大学校第一看護学科卒業後、元科学技術庁放射線医学総研究所にてがん看護を務めた後、2011年、国際ヒーリング看護協会(http://npo-ihan.net/)とルミナス訪問看護ケアステーションを立ち上げた。国際ヒーリング看護協会ではホリスティックケアの啓蒙と普及を行い、和光大学の伊藤武彦教授とヒーリングタッチの効果について共同研究を行っている。今年3月、ホリスティックケアのできる看護師、介護士らの育成と普及に向けた学校、ルミナスホリスティックアカデミーを立ち上げた。
(取材・構成=田中響子)
【関連記事】
「がんが消える」患者は決してゼロではない
「自宅で最期を迎えたい」という親のためにできること
がんを克服するための感情マネジメント
誰が、介護世帯を世の中から「隔離」するのか?
なぜ、老父は「一人ぼっち」も「他人と一緒」も拒むのか?