自己欺瞞が経済政策に問題をもたらす
アダム・スミスは、人間が自分の行動を決める際には「中立な観察者」とのやり取りを経る、としている。つまり、自分を客観視することである。室町時代に能を大成した世阿弥が言った、舞台で演じる自分を見ている自分を意味する「離見の見」とも共通する考え方だといえるだろう。
しかし、アダム・スミスは言う。自己の利益が絡んでいるときに客観的になるのは難しいと。己を欺こうとする自己欺瞞があるためで、現代用語ではこの自己欺瞞は「確証バイアス」と言われる。自分の先入観を通して現実を見る際に、自分にとって都合のいい情報、自分の価値観と一致する情報ばかりを集める傾向を意味する。自分にとって好ましいストーリーを作りあげてしまい、残りの点は無視することで自己満足に陥るというわけだ。
著者は、「確証バイアス」は自分の専門分野である経済学においては重大な問題となる、と指摘する。ケインジアンはオバマ政権の緊急経済対策によって数百万の雇用が創出されたことを、データと分析結果が裏付けているため知っている。一方で懐疑論者は、オバマの施策はたいした効果はなかったと主張する。彼らが持つデータも分析結果も、同様に主張を裏付けているためだ。
政策の精度はさておき、日本でもアベノミクス絡みで見られる構図のような気もするが、人間の本質を透視していない経済学は、何度となくその限界を指摘されてきた。
アダム・スミスは、「自分を知るためには」「愛されるに値する人になるためには」といったテーマについて、回答を提示していく。変化の激しい時代に生きる我々にとって、普遍的なものの見方、考え方が求められるのではないだろうか。