「3人投げ落とし」事件 介護現場の人の見方

この事件や報道を、介護現場の人たちは、どう受け止めたのでしょうか。

本連載において、本音を交えて介護の話を聞かせてもらっているケアマネージャーのFさんと、最近その席に参加してくれるようになったTさんは特別養護老人ホームの職員として働いた経験があるとのことなので、その質問をぶつけてみました。

まず口を開いたのはTさん。

「残念ながら介護施設で虐待があることは否定できません。それを隠したがる体質があることも確かです。が、それが氷山の一角で、どこの施設でも虐待が当たり前のように行われているといった報道は納得できません。業界にいれば色々な情報が入ってきて、実際評判の悪い施設もあります。“あそこは儲けが最優先。職員の教育もろくにしないから虐待が横行している”なんて噂を聞くこともある。でも、そんな施設は少数ですよ。多くの施設の職員は、厳しい労働環境でストレスにさらされても“虐待なんてもってのほか”と自らを律し頑張っているんです」

犯人に対してもこう言います。

「夜勤のストレスがあったと供述しているようですが、それが虐待につながり、その果てに殺人までいくというのはどう考えても異常。犯罪体質というか、彼特有の資質の問題です。同様の環境にいる施設の職員はああいうことをする可能性がある、という見方をされるのは悲しいですね」

一方、Fさんは事件が起きた施設の対応に疑問を呈します。

「転落死が仮に事故だったとしても、施設としては決してあってはいけないこと。1件目が起きた時点で緊急会議を開き、夜勤担当者への聞き取りもして原因の究明をするのが普通です。当然、その担当者は夜勤からも外す。ところが、あの施設ではそうした当たり前のことをせずに放置し、第2、第3の犠牲者を出してしまった。あの施設の運営会社の社長は“性善説で職員を見ていた”と言ったそうですが、自らの怠慢を追求されたくないがための言い訳に過ぎません」