求められるのは増税ではなく財政出動
この発言から教授が増税には反対と察しはつくが、何とも回りクドイいい方だ。細かい話であるが、具体的な2017年4月からの10%消費税増税への明言は避けているのに気づかれよう。こうした表現になるのも実は理由がある。海外から一国の税制について引き下げよ、上げよ、あるいは見送りせよなどと指示すれば内政干渉と見なされる恐れがあるため、たとえ個人的な主張とはいえ、政府に招致された以上、配慮したと考えるのが妥当だろう。
クルーグマン教授からよもや「わからない」などという答えが返ってくるとは官邸側も思っていなかったかもしれない。勿論、表向きはあくまでも増税判断を問う会合ではなく国際金融経済の分析である。それでも、増税見送りのコンセンサス作りのために、消費税が日本経済へ深刻な打撃を与える原因そのものがよくわからないとする海外の有識者に増税の判断を委ねたとするなら、そうした政府の姿勢は禍根を残すことになる(教授とて日本の国内税制の判断を問われても困惑したことだろう)。
そして、クルーグマン発言を増税見送りのための支援材料とする一連の国内報道も正鵠を欠くと言わざるを得まい。次回の増税に反対どころか、財政危機の問題を全面に出した前回の5%から8%の引き上げが極端な見当違いであるとの指摘だからだ。教授の主張はあくまでも政府による「健全な」財政政策の推進に尽きる。日本だけでなく世界的に経済の脆弱さが露呈している現状、求められるのは増税ではなく(減税をも含めた)財政出動となる。
今回の会合とその後の報道を見る限り、主に増税賛成派が指摘するように、最初からクルーグマン教授に関しては結論ありき、すなわち増税反対で事は進んでいたのであろう。かくいう筆者自身は消費税増税にも消費税という税制そのものにも反対の立場だが、こうした外圧を利用した流れで何ら本質論に迫らないまま消費税論議が進んでいくことに強い懸念を覚えている。都合の良いことも悪いことも含め、すべて情報を開示しながら消費税制度のそのものに迫る。地に足の着いた議論を国内で進めていく。そうした必要性を求める発想が国内のコンセンサスとして浸透していく必要もあろう。