「オバマ旋風」と相似本選でも勝てるか

前出のデービス教授は、11月8日の一般投票でも、民主党の指名を勝ち取るはずのクリントン候補を、トランプ候補が破る、と予想する。ヒントは、08年の「オバマ旋風」である。

まず共通するのが、「投票とは無縁だった有権者が一票を投じた」。オバマ氏は「希望と変革」を、トランプ氏は「米国を再び偉大な国に」をキャッチに、選挙戦を政治的ムーブメントにつなげた。また、いずれもメディアの注目を集め、「実像以上に存在が巨大化している」。そして、どちらも「政治経験に乏しいアウトサイダーである」。「あのときとそっくりだ。トランプが本選で勝つと私が予想する理由は、そこにある」(デービス教授)。

米国では、党ではなく、「候補者」を選ぶ傾向が強まっており、今や大半が無党派層だ。トランプ氏は共和党から立候補しているが、共和党の価値観とは相いれない。トランプ候補の勝利は「米国政治の変容、共和党の終焉を意味する」とデービス教授は言う。

「新勢力、新政党が生まれ、二大政党制の終わりが訪れる。党のインサイダーに候補者を決める力がないとしたら、もはや党として意味をなさない。今回は主要な『変革の選挙』になるだろう。歴史を振り返ったとき、『あの年、すべてが変わった』と」

スーパーチューズデーの夜、トランプ氏はフロリダでの記者会見で、自らを「ユニファイアー(統一する人)」と宣言し、自身への批判を繰り広げる共和党議員への配慮をみせた。

「共和党、そして、すべての人たちが一つになるよう望んでいる。そうすれば、われわれは無敵だ」

米国の「融合」を訴えたオバマ氏を思わせる口ぶりで大統領指名候補への道を突き進むトランプ氏――。共和党崩壊のXデーが迫りつつある。

在米ジャーナリスト 肥田美佐子
東京都出身。「ニューズウィーク日本版」の編集などを経て、1997年渡米。米系ケーブルテレビネットワークなどでの勤務を経てフリーに。マンハッタン在住。
(写真=時事通信フォト)
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