「トランプとクルーズが代表するように、今年は『アウトサイダーの年』だ」(ジェノビース教授)。

「怒り」に訴えるトランプ氏の戦略は、グローバル化やIT化から置き去りにされた白人中高年の心をわし掴みにした。ネバダ大学ラスベガス校のポール・デービス教授は「(大統領選候補者としての)イデオロギーがゼロでも、『怒り』を代弁してくれるトランプに有権者はひかれる」と言う。いわばトランプ氏は最後の「希望」なのだ。

2月17日、サウスカロライナ州予備選に先立ち、ニッキー・ヘイリー州知事はルビオ氏の支持を表明し、メディアも大々的に報じた。だが、その3日後の予備選で、同候補はトランプ氏に10ポイント差で破れている。「インサイダー」からの支持は、もはや負のレッテルでしかない。トランプ氏も今年1月にサラ・ペイリン元アラスカ州知事から公式に支持を受けたが、スーパーチューズデーの同州選挙ではクルーズ候補に負けている。「共和党主流派から支持されればされるほど、その候補者は『主流派』とみなされ、有権者から嫌われる」(デービス教授)。

これは米国の象徴だった「二大政党制」の崩壊とも言い換えられる。

一般党員の心掴めずジリ貧のルビオ候補

共和党の主流派は、トランプ候補でもクルーズ候補でもなく、「共和党のオバマ」とも呼ばれるルビオ候補を推している。ルビオ候補はネオコン(新保守主義)で、オバマ大統領の最大の功績の一つである「イラン核合意」の撤廃を主張しているが、その一方、キューバ系移民2世でもあり、不法移民問題には寛容。トランプ陣営と違い、外国メディアの取材にも協力的だ。

だが、今回は4年前とは異なり、ルビオ氏のように穏健な共和党主流派は分が悪い。党員集会直前に開かれたルビオ候補とトランプ候補の集会の規模を比べても、主流派の劣勢は明らかだ。ルビオ氏は「『怒り』は問題解決にはならない。最も声が大きい人ではなく、勝てる候補者を選ぶのが選挙だ」と訴えたが、会場の熱気は今一つだった。カリフォルニアから妻と駆け付け、ルビオ氏とトランプ氏の集会に出たロブ・ダムウィジクさん(60歳)によれば、トランプ氏の集会には8000人が押し寄せたという。「トランプ氏は『ミッシング・リンク』。『米国を再び偉大な国に』という主張に真摯さを感じた」。

ミッシング・リンクとは、人類の進化における空白の時期を指す。

今回の予備選では、これまで民主党より低かった共和党の投票数が、多くの州で大幅に増えている。ネバダでは今年7万5000人が投票したが、前回の12年は3万3000人だった。一方、民主党は08年に比べ約30%減となった。デービス教授は「トランプ効果だ」と指摘する。

投票数の多さは主流派の推すルビオ候補には逆風になる。3月15日のフロリダ州予備選で圧勝しなければ、撤退を余儀なくされるだろう。ネバダ大学ラスベガス校のデービッド・ダモーレ准教授は「(ルビオ候補は)多くの大物議員から支持を取り付けたが、ネバダでも敗れた。主流派と一般共和党員との溝が広がっている」と分析する。