ドライバーを前後車輪の間のどの位置に置くか

ロードスターのチーフデザイナーの中山雅さんのスケッチ画。

前後のフェンダーを可能な限りそぎ落としたことが、幸いして(?)、車体前後の灯火類にも独創性あふれるデザインが生み出された。

まずヘッドランプ。フェンダーがそぎ落とされているために、通常の大きさのヘッドランプがおさまらない。おさめるためには、スペースが少なくてすむLEDにしなければならない。アルミ製のフェンダーの場合と同様コストの高い“贅沢なパーツ”になるのに、そうせざるを得ない。そのうえで、ぎりぎりおさまるデザインにした、というわけだ。

リアのコンビネーションランプにも同じような難題が持ち上がった。フェンダーがそぎ落とされているため、ストップランプはどうしても車体の内側に寄った位置にならざるを得ない。しかし車両の保安規準からその取り付け位置は車両の外側から400ミリを越えて内側に入ることは許されない。そこでロードスターではストップランプの円の外側が、この限度ぎりぎりの400ミリとした。ストップランプを含むいわゆるリアコンビランプのデザインとその位置決めは、フェンダーをどこまでそぎ落とすかとの格闘だった。

こうしてボディーをロードスター独特のスタイルに仕上げながら、デザイナーは、重要な要件である、走りの人馬一体にふさわしい、見た目の人馬一体感、走りを予感させる一体感の具現化に挑むことになる。一般的な乗用車では望みえない一体感への挑戦だ。

そのために、と中山は言う。

「ドアの位置に徹底的にこだわりましたね」

つまり、車体の横からながめて、ドライバーが潜ったような感じでもなく、上に出すぎた感じもしない、いわば“いい感じ”で乗っているように見える、そんなドア上面の高さを考え抜いたのだ。

ドアの上縁が高すぎると出るのは首だけ、また低すぎるとつい肘をかけてしまう。どちらも決して美しいとは言えない。中山はこの垂直方向の課題に徹底的に向きあった。さらに水平方向の課題にも答えを出そうとしていた。それはドライバーの位置を、前後車輪の間のどの位置におさめるか、という課題だ。

4メートルに満たない全長のどの位置に人を座らせるのか、頭を置くのか。クルマのパフォーマンスの観点から、ドライバーの位置はクルマの中心が理想だと一般的に言われているし、新ロードスターもそのような設計になっていた。したがって、問題は横から見たとき、頭の前後方向の位置がどのように見えるか、ということになる。頭の位置が、前後方向に対して後にあるほうが、横からながめたときにのびやかで豊かな印象になる。

反対に、前に寄っているように見えると窮屈な印象になりクルマ全体の格好もよくない。ロードスターはボンネットが長くしかも前方に十分そぎ落とされているために、頭の前方に広がる空間が大きく見えて、全長4メートルにも満たない短い車体にもかかわらず、ドライバーが鼻の長いクルマに乗っているような印象を与える。