独特の部門・部署を越えた協力態勢の成果

最後に中山のコメントを紹介して、本稿を締めくくろうと思う。

中山に言わせれば、スポーツカーというのはタイトにつくられているもの、そしてぴちぴちの洋服みたいなもの、とのことだ。つまり、体形そのものがカタチであり、もしロードスターがカッコいいとすれば、それはエンジニアがカッコよくしたのだ、という。

「エンジニアがカタチをつくって、デザイナーはそれに着せる衣装をつくっているのです。デザインがよいというのはデザイナーの腕ではありません。それはエンジニアによる生産技術、工作精度の高さなどの賜です。主体は工場の人たちですよ」

この謙虚さはひとり中山だけではなく、マツダのデザイナーすべてに共通している姿勢ではないだろうか。ここにはひとつのクルマをつくり上げるマツダ独特の部門・部署を越えた協力態勢の文化があるように思われる。

『ロマンとソロバン』(宮本喜一著・プレジデント社刊)

どうしてもこの機会に書いておきたいので最後の最後に、蛇足をひとつ。

中山の言うように当初の企画では、新しい4代目ロードスターに搭載されるエンジンは1.5Lのみと割り切っていた。このエンジンを使ってまとめあげるのに、主査の山本も大変な苦労をしている。しかし、開発過程で2.0Lエンジン搭載モデルの企画が生まれる。中山の言うように、すでに“ぴちぴち”の製品として完成していたために、ボンネット下の1.5Lエンジンのスペースに2.0Lのエンジンなど入れられる余地はない。設計の初期段階でそんなことは考えていなかった。

ところがいざ、エンジンを大きくしようとすればその大きなエンジンをとりまくさまざまな部分もそれにあわせて変更する必要が生じる。一瞬、誰もがそんなことは無理だという結論になりかけたとき、2.0Lエンジンを“押し込む”アイデアを生み出したエンジニアが現れた。このエンジニアのアイデアがなければ、2.0Lエンジンのモデルは生まれず、ひょっとすると、ワールド・カー・オブ・ザ・イヤーの受賞にも影響した“かも”しれない。マツダの開発エンジニアの潜在能力はことほどさように高い。マツダの次の一手が楽しみになる。

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