ブランド戦略が大きく発展する絶好のチャンス

ロードスターのチーフデザイナーの中山雅さん(左)とロードスター開発主査の山本修弘(右)。(2月27日マツダ本社ショールーム、ロードスターサンクスデー)

このデザインが成立したのは、単にデザイナーの智恵だけではない。そこには、スカイアクティブ技術を駆使したメカニズムやレイアウト、さらには生産技術の追い込みがある。ごく限られたスペースの中に最新技術を詰め込みながら、同時に、ドライバーの着座スペースや操作系の空間は先代のロードスターに勝るとも劣らない。むしろドライビングポジションについてはドライバー本位にさらに進化している。

言うまでもなく、デザイン造形の話はこれほど単純ではない。しかし、“人馬一体”というテーマをエンジニアリングの面だけでなく、造形の面でも具現化しさらにマツダの乗用車との統一感を演出しただけでなく、むしろそのデザイン・リーダー的な存在にまで発展させたのは、このNDが初めてだと言っても許されるはずだ。

今回、このロードスターがワールド・カー・オブ・ザ・イヤー賞だけでなく、ワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤー賞も同時に授与されたという背景には、単にそのデザインが独創的というだけでなく、その四半世紀にわたって継承されてきたデザインを、マツダがあえて発展的に乗り越え、新しいロードスターのデザインを提示したばかりか、マツダ・デザイン全体のポリシーと方向性を示したと解釈できる事実がある。

これによって、ロードスターが従来の“末っ子的”マツダのアイコンから脱却し、マツダ・ブランド戦略の核としての存在を確立したと言える。四半世紀あまりを経て初めて、マツダ・ブランドとロードスターが一体化しさらにスカイアクティブ技術がそれを強化する独創的な武器として存在するという構図ができあがった。あえて付け加えると、これだけのパフォーマンス・カーを顧客にとって手の届きそうな本当の意味で“リーゾナブル”な価格でつくれる、その高い生産技術にも注目しておきたい。駆動系がFR、ボディーは屋根のないオープンというこのモデルは、小型車はFFが主流という現在では“特異”であり、しかも大量生産は望めず、生産現場泣かせになりかねない。

したがって、もし生産には専用のラインが必要ということになれば、その価格は一気に100万円跳ね上がる。マツダがロードスターを生産しているのは“伝統的に”専用ラインではない。同じラインには、SUVのCX-5、CX-3といったパワートレーンもサイズもさらには車型も全く異なるモデルが流れているのだ。つまり、価格それ自体もロードスターのパフォーマンスであり実力なのだ。

このワールド・カー・アウォーズが主宰する賞をダブルで受賞したことによって、マツダのブランド戦略は大きく発展する絶好のチャンスを手にした。マツダはこのチャンスを最大限に活かす方策を考え出すことだろう。どんなアイデアが飛び出すか、大いに注目したいものだ。