制約のおかげでロードスターのデザインが完成

中山は次のように言った。

「人馬一体を標榜するマツダ車としての統一感を、単なるグラフィックの面で追求するのではなく、ボディー全体のいわば“体形”で表現しようと心がけ、それに邁進したのです」

たとえばラジエーターグリルの形をモデル間で類似にするといった単なる“見た目”の統一感を演出する、といった手法はとらない。それよりも、全体の骨格や体形といった全体的総合的な造形によってマツダの走りを表現し、マツダ車の総体的な統一感を演出し表現する、という意味だろう。言い換えれば、セダンやSUVといった乗用車のカテゴリーが違い、またエンジンの排気量やボディーの大きさが異なっても、マツダのバッジがついたモデルなら、道路上を走っているその姿をひと目見ただけで「マツダ車だ」と認識され、静止時にもその走りが予感されるデザインを彼らは目ざすことになる。

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しかも、もともとはロードスターの個性とされた“人馬一体”が、しだいにマツダが掲げたZoom-Zoomという走りを印象づけるキャッチフレーズと融合し、マツダ車共通の個性として定着し始めていた事実が、強く彼らの背中を押していた。

「エンジンは1.5Lのみ、と決められたことがよかった」と中山は振り返ってくれた。

エンジンの排気量が決まった瞬間、タイヤ+ホイールのサイズ、ホイールベース(前車軸と後車軸の間の長さ)の上限が決まる。ボディーの大きさにも制約ができる。具体的にはホイール径は16インチ、ホイールベースは2300ミリ前後、車体の全長は4メートルまで。車重は1トン以下。結果として、エンジンの排気量の1.5Lはこれまでで最小、全長も最短の3915ミリ(従来最短だったNAより55ミリ短い)におさえられた。中山に言わせれば、この制約があったおかげで新しいロードスターのデザインが完成した、という。

通常、セダンやワゴン、SUVといった乗用車には屋根があり、中に乗っている人間は外からながめる人の目にはほとんど入ってこない、つまり意識されない。したがって、乗員の“見た目”がクルマのデザインに大きく影響することはない。しかし金属製の屋根のないオープンカーの場合、人間の体がいわば“むき出し”になるために、人間の姿そのものもデザインの一部にならざるを得ない。と言うよりむしろ、見た目の人間の姿をその一部として溶け込ませてはじめて、オープンカーのデザインは完成する。人間もそのデザインの重要な要素なのだ。

(文中敬称略)

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