首相は14年11月、消費税率10%への引き上げを凍結して衆院解散を表明した際、「18カ月後、再び延期することはない」と断言しており、再延期の理由を必要としている。自民党幹部は「安倍首相はお坊ちゃまだから『嘘をついた』と言われるのが嫌で、前回の増税先送り時と同じように学者の声に耳を傾けるという方式をとることにしたのだろう」と指摘する。
マスコミ報道にも既視感がある。1年半前に「増税凍結、衆院解散」をいち早く報じた読売新聞が、今回も「首相が増税先送り検討、衆参同日選も視野」とスクープした。菅義偉官房長官ら政府高官は表向き報道を否定するコメントをしているものの、すでに永田町には解散風が吹き荒れる。首相官邸関係者は「大新聞が派手に報じれば、すぐに政界やマーケットの反応がわかる。最高の観測気球だ」と語る。
選挙に弱い若手国会議員のみならず、ベテラン議員も衆参ダブル選挙を見据えて地元活動に傾注しており、甘利明前経済再生担当相の辞任劇で幕を開けた通常国会は野党議員の見せ場がないまま事実上の「閉会状態」に入っている。閣僚や自民党幹部のスキャンダル・失言を攻撃し、民主・維新両党による民進党結成で一気に勢いに乗るはずだった野党も不発のままだ。
「増税を喜ぶ国民はいない。選挙直前に凍結表明すれば誰でもヒーローになれる」。首相周辺は安倍政権の解散戦略をこう表現する。5月下旬の伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)までに5回程度の「国際金融経済分析会合」を開催して増税延期論を有識者から噴出させ、安倍首相が6月に増税再延期と衆院解散を表明。7月10日の衆参同日選が濃厚だ。
政府は緊急経済対策を盛り込んだ16年度補正予算案の編成に取りかかっている。首相ブレーンの本田悦朗内閣官房参与らは5兆円超の補正予算案を提唱しており、与党は大規模な財政出動を選挙公約とする見通しだ。「打ち出の小槌」を手にしたと笑みを浮かべる政府高官に、社会保障や財政再建を懸念する声は届かないでいる。