「受益者負担」なら選択肢は増やせる

保育対策予算は国と自治体のそれぞれで分けて考える必要がある。国の予算は主に民間認可保育所の新設に対して補助金をつけている。保育所を増やせと国に訴えても、認可する自治体が動かなければ補助金が生かされない。

認可保育所には利用する子どもの人数や年齢に応じて自治体が運営費を支給する。この運営費は国が基準を定めた「公定価格」になっている。保育士不足の原因について「保育士の給与が安いからだ」との指摘がある。保育士の給与が安い理由は、公定価格によってコストが決められているからだ。つまり保育所が経営の工夫として給与を大きく引き上げることは事実上できない。

「公定価格」の運営費だけでは保育所は経営できない。特に都市部の自治体では、物件費や人件費の負担を考慮した額を上乗せしている。その額は3歳未満児で公定価格の概ね倍額。「激戦区」となっている中野区などは、区負担が国負担を上回っている。国は公定価格を基準に保育士の処遇改善をしているが、自治体の負担分は対象になっていないため、特に都市部では引き上げの効果は薄れてしまう。

振り返ってみると2001年に初めて株式会社が保育所の運営に携わって以来、保育士の人件費を抑えることで定員当たりの運営費を圧縮する施策が進められてきた。その背景には、当時、「保育士の給与が高かった」ことがある。

公立保育所で働く公務員保育士の給与体系は年功序列であり、勤続年数が長くなるほど給与は高くなる。どれだけ違うかといえば、民営化で公立保育所1カ所分の予算で民間保育所2カ所が増やせるようになった。それだけ給与は下がったわけだ。

これまで保育所の定員を増やすことができたのは、言い換えれば、保育士が待遇の悪さに甘んじてくれたからだ。「保育士不足」が問題になっている通り、給与の引き下げは限界に達している。保育士の待遇改善のためには、「公定価格の引き上げ」だけでは不十分だ。自治体の負担を考慮した制度設計が必要だろう。