高度統合による3つの経済的メリット
石油コンビナート高度統合運営技術研究組合は、RING・Iで、鹿島・川崎・水島・徳山・瀬戸内の五地区において、コンビナート内設備の共同運用による製品や原材料の最適融通などに取り組んだ。ついで、RING・IIでは、鹿島・千葉・堺=泉北・水島・周南の五地区において、コンビナート内における新たな環境負荷低減技術の確立や、副生成物の高度利用、エネルギーの統合回収・利用などに力を入れた。そして、RING・IIIでは、鹿島・千葉・水島の三地区において、コンビナートとしての全体最適を図るために、石油・石化原料の統合・多様化やコンビナート副生成物・水素の統合精製などの技術開発を進めている。先述した水島地区での新日本石油とジャパンエナジー(新日鉱ホールディングスの子会社)による両社製油所の一体的操業、および千葉地区における出光興産と三井化学による多面的な事業連携は、いずれも、RING事業の成果として実現をみたのである。
コンビナートの高度統合が進展すれば、日本の石油産業や石油化学工業の国際競争力は強化される。その理由としては、コンビナートの高度統合がもたらす、以下の3つの経済的メリットをあげることができる。第1は、原料使用のオプションを拡大することによって、原料調達面での競争優位を形成することである。同一コンビナート内の石油精製企業と石油化学企業との間で、あるいは複数の石油精製企業間で、連携や統合が進むと、重質原油やコンデンセートの利用が拡大する。最近では軽質原油と重質原油との価格格差は拡大しており、コンビナート統合による重質油分解機能の向上やボトムレス対策の進展によって、相対的に低廉な重質原油を大量に使用できるようになれば、国際競争上、有利な立場を得ることができる。一方、天然ガスに随伴して産出されることが多いコンデンセートに関しては、一般の原油より軽質でナフサに近い性状を有しながら国際的にあまり利用されてこなかったため、石油精製企業・石油化学企業間の提携・統合により、それを使用することが可能になれば、競争上の優位を確保しうる。
第2は、石油留分の徹底的な活用によって、石油精製企業と石油化学企業の双方が、メリットを享受することである。同一コンビナート内でリファイナリー(石油精製設備)とケミカル(石油化学)プラントとの統合が進めば、リファイナリーからケミカルプラントへ、プロピレンや芳香族など、付加価値の高い化学原料をより多く供給することができる。また、エチレン原料の多様化も進展する。一方、ケミカルプラントからリファイナリーへ向けては、ガソリン基材の提供が可能である。これらの石油留分の徹底的活用によって、石油精製企業も石油化学企業も、競争力を強化することができる。