【為末】そもそも何かスポーツはされていたんですか?
【みうら】小学校まで遡らないといけないんですけど、そのころはまだ結構陽気な感じだったんですよ。でも住職を目指して仏教中学に入ったあたりから、アスリートから遠ざかってしまいましたね。いわゆる「陽気な引きこもり」になってしまって(笑)ひとりっ子だったので、とりあえず友だちが家に来たときに、できるだけ長く帰らないでいてもらうためにどうするかばかりを考えていたんです。
【為末】仏像のスクラップブックを見せたりして(笑)
【みうら】結局、やっている仕事が「接待」中心で。僕って「オタク」みたいなイメージがあるんですけど、それは単に接待するため、人に見せるためにあるものなんですね。「自分だけの楽しみ」が純粋な趣味だとしたら、すごく不純な動機で始まった趣味ですよ。とりあえず個人競技をやりながら、常に誰かを引き込もうと勧誘しているんだけど、結局誰も入ってこなかった、みたいな状態がずっと今まで続いていて(笑)
【為末】みうらさんのやってることって、マニアの世界に光を当てるようなことですよね。それってどことなく僕の場合と似ているような気がします。ハードルもマイナー競技だったと思うんですが、日本人である僕が勝つということで世間の関心が向くというところがあったんです。
【みうら】ハードル競技って、脛、うちますもんね(笑)
【為末】そうそう。みんなじゃないですけどね。
【みうら】小学校の運動会で障害物競走をするとき、「これは将来、人生というハードルを乗り越えていかなきゃならないという意味なのかな、いやだな」ってずっと思っていたんです。ただ単にまっすぐ走ればいいものを何故?って。あのハードルの高さにも何か深い意味とかあるんですか?
【為末】一説には「羊飼いの柵の高さ」と言われているんですけど……あまり意味はないでしょうね。
【みうら】意味はないと(笑)
【為末】ええ。でも僕らにとってはハードルってありがたいところもあるんです。陸上競技は結局、黒人の選手とどう戦うかなんです。彼らがのびのびと走るとほとんど勝てないので、ハードルがあることがむしろいいんですよ。
【みうら】そこにハードルがあれば、バケモノみたいに速いやつが引っかかるかもしれないという。
【為末】そうですね。なんとかなるんじゃないかって。
【みうら】ということは、バケモノ防止のためのハードル?
【為末】そういうことになりますかね(笑)