少数民族問題、汚職・腐敗が待ち受けている

軍政が終わっても民主化、近代化がすんなり進まないミャンマーの国情もある。1つは少数民族との内戦だ。人口約5000万人の3分の2はビルマ族だが、残る3分の1は少数民族で、文化の異なる民族が130以上存在する。イギリスから独立した直後からビルマ族中心の国づくりに少数民族が反発、さまざまな民族が分離・独立を求めて武力闘争を繰り広げてきた。麻薬で稼いで戦力を整えている民族もあれば、中国の影響を強く受けている民族もある。イスラム系の民族やキリスト教系の民族もある。利権争いや宗教対立などの要素も複雑に絡み合った少数民族問題だが、15年3月にはテイン・セイン政権が16の少数民族武装勢力のうち残る2勢力と停戦合意したと発表した。今後、少数民族との和平交渉はNLDによる新政権が引き継ぐだろう。当然、国軍の後ろ盾は必要なわけで、新政権と国軍の関係性が注目される。

さらには北西沿岸部に住んでいるラカイン族のように、パスポートや投票権などの国民的な権利をもらえずに迫害されている少数民族もある。ラカイン族はバングラデシュやインド北東部から流れてきた移民で、ミャンマー政府は彼らを自国民として認めていない。「すべての民族でビルマを構成する」と語るスー・チー氏でさえ、以前「(ラカイン族は)ビルマ人じゃないから知らない」とインタビューで答えていた。少数民族問題や民族間格差の問題は非常に根深く、ミャンマーの政情を不安定なものにしている。

ミャンマー社会にはびこる汚職・腐敗も民主化や近代化の足枷だ。かつては汚職腐敗国家ランキングで北朝鮮の次点がミャンマーだった。最近は多少順位が下がったが、軍人と許認可権を握っている役人の腐敗ぶりは相変わらず。人件費が上がってしまった中国に代わる投資先として期待されたが、許認可のかったるさと理不尽な汚職腐敗ぶりに海外の事業家もすっかり懲りて、近頃は熱が冷めてしまった。人件費にしても1年前は月額30~40ドル程度と言われたが、テイン・セイン政権の経済改革で給料も物価もどんどん上がっている。収賄で儲けた連中は高値でも平気で買うから彼らがインフレを加速しているとさえ言われている。庶民には不満が蓄積しているはずだ。今後、スー・チー氏の取り巻きがミャンマーの利権を狙う外国勢に取り込まれて、民主派の新政権が汚れていくのは目に見えている。アウン・サン・スー・チーというジャンヌ・ダルクが遂に勝利したけれど、前途はそれほど明るくないし、人気が高いがゆえに逆に反動が怖い。

民主主義の基本は「最大多数の最大幸福」だが、これは経済学的にも社会制度的にも設計が非常に難しい。私がマハティール元首相の時代にマレーシアのアドバイザーになったとき、国民1人当たりGDPは1200ドル。それが中進国の目印である1万ドルを超えるのに20年かかった。ミャンマーの民主化、近代化はまだ端緒についたにすぎないが、よほどの指導者が現れない限り前途は多難、と言わざるをえない。

(小川 剛=構成 AFLO=写真)
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