「精神論では再生しない」役員は冷たく言い放った

そうした不協和音は稲盛が挨拶のなかで思想家・中村天風の言葉を紹介したときの役員たちの反応にも見られた。「新しき計画の成就は只不屈不撓の一心にあり さらばひたむきに只想え気高く強く一筋に」。役員は耳を澄まして聞くかと思いきや、さにあらず。座談会で専務(京セラ)・大田はこう語った。

中村天風の言葉や、稲盛の「利他」などは、JALの各部署の目立つ場所に貼られている。

【専務(京セラ)】当時の一部の役員は、「そういうことは全く意味がない」と抵抗しました。「精神論なんかでは再生できないんだ」と。「JALにはそんな(スローガン貼り出し)文化はない。それにポスターは今まで多数貼ったが、ほとんど意味がない。ポスターを作るお金もない」という主張でした。とても冷たい反応でわれわれはちょっとがっかりしたのを覚えています(その後、スローガンは費用削減のためA4紙を貼り合わせることでポスターにして各職場の目立つ場所に貼り出された)。

▼このスローガンとともに稲盛と大田が気になったのは、JALに“言葉遊び”がまかり通っていたことだ。さまざまな「計画」は立てるが、本気で実行しようとしない。いろんな標語があるが、行動はほとんど伴わないのだ。

【広報】稲盛さんが会長就任時に挨拶した内容を手紙形式で稲盛さんから社員全員へメッセージを流そうとしたけれども、確か、当時はそういうこともできない状態だったんですよね。

【常務(1)】あの頃、経営陣の発言の月刊レポートを出したり、社内イントラで各部署にメッセージを送ったりはしていましたが、接客部門を中心に全社員が自分のパソコンを持つ環境ではなかったのでダイレクトに経営のメッセージを受け取ることは物理的にできなかったんです。そのとき、稲盛さんから「それでは駄目だ。一人一人に伝わったかなぜ確認しないんだ」と叱られたのを覚えています。

【専務(京セラ)】社内報の刷新もそうした稲盛さんの考えに基づいたものです。私たちが来た2月発行の社内報はカラー印刷で、しかも倒産と無関係な社員の楽しそうなエピソードが満載でした。信じられませんでした。倒産企業が、明るいミニコミ誌のようなものを出すなんて。社内報は経営方針を社員に伝える媒体であるべきで、白黒でも十分。そう私は考えましたが、「社内報の内容を変えることはできません」と当初は厳しい反応でした(現在はモノクロ)。

(文中敬称略)

(堀隆弘、キッチンミノル、若杉憲司、小倉和徳、室川イサオ=撮影)
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