【経理】私が非常に感銘を受けた稲盛さんの言葉は、路線別収支を毎日出し、連結決算を3カ月ごとから毎月に変えることの理由を話したときのことです。「経営の数字は、コックピットの計器盤の数字に匹敵する。経営者を目標に正しく誘導する、羅針盤の役目を果たさなければならない」。確かにその通りだと、目からウロコが落ちました。

【専務(京セラ)】当初のJALの会計は、稲盛さんから見ると本当に時代遅れかつ不正確なものに映りました。もっとリアルタイムに正しい数字を経理だけでなく一般社員も持つべきだと。その指導のなかで出た稲盛さんの言葉ですね。最初に私たちがスピード化をお願いしたときは、「(そんなに早く)できませんよ、何を寝ぼけたこと言っているんですか」という反応でしたが(笑)。

稲盛が逆ギレ役員におしぼりを投げた夜

【常務(2)】私は稲盛さんに大声で叱られた経験を誇りに感じています。ある日、お酒を飲みながら役員らが議論するコンパに初めて参加したとき。今夜は稲盛さんに何を聞いてもいいという場の空気になり、いろいろ質問するうちに議論が紛糾し、最後に「おまえは何を言うておるんだ」と、おしぼりが……。

【広報】え、飛んできたんですか?

【常務(2)】その日のコンパでの議論テーマは情報開示でした。稲盛さんは、京セラではいい業績データも悪いデータも経営側が開示することで社員は納得してくれた、だからJALでも同じようにしたい、俺を信じてくれるなら一緒にやろう、と。その頃の私は、会社も倒産し、自分もこれからどうなるかわからない。会社を去ることになるなら言いたいことを言ってやろう、と普通の状態ではありませんでした。それで稲盛さんにもいろいろと意見をしたところ最後におしぼりが私のところへ。

【広報】で、どうなったんですか?

【常務(2)】同席した役員の皆さんは大慌てでした。でも、稲盛さんだけは冷静で「彼は今、一生懸命に考えようとしている」と逆に周囲を制しておっしゃったんです。お酒の席のこととはいえ、翌日お会いする際にはさすがに気まずく感じていたら、稲盛さんは何ごともなかったかのように「よう!」と声をかけてくださいました。このような方がJALのトップなら、信じられる。自分の思ったことを素直にぶつけていこう。そのときの気持ちは今も変わっていません。それと、もうひとつ忘れられないのは、月1回(3日間)開いている業績報告会(稲盛を含む全役員、全部長などが出席)で以前、「おまえは評論家か」と稲盛さんに怒鳴られたことです。まさに真剣勝負。顔を真っ赤に真剣に自分のことを叱ってくれる上司は今までJALにはいませんでした。