学生自らが考えることで創意工夫ができる
実は昨秋、ある週刊誌の対談で原監督に取材をした。印象に残ったのは、従来の陸上界の常識を疑い、一般社会の常識を学生に染み込ませていくというものだった。年間目標(要は次の箱根駅伝優勝)を立て、そのためのロードマップ(月間目標)を積み立てていく。それを毎日確認しながら自己採点を付けていく。会社でいえば、年間売り上げの目標を掲げ、それに向けて月間どれだけの売り上げが必要か、というものだ。
それをただ単に監督が押し付けるのではなく、学生が自ら考えることによって、創意工夫ができてくる。違ったと感じてアドバイスを求められれば、それに答える。
また、面白かったのは、寮が楽しい場であることを演出していることだ。「牢獄のようだったら嫌になる。楽しいことが外にあったら、目を盗んで遊びに行く。だったら、寮が楽しい我が家のような雰囲気の方がいいでしょう」と語っていた。これまでの学生スポーツの指導者には、信じられないようなセリフだろう。しかし、目からウロコとは、このことではないか。
昨年の初優勝は、「ノーマークの大穴だったからこちらも気がラクでしたが、今回は単勝1.2倍の本命視されているから大変だ」と語っていたが、そのプレッシャーを跳ね返しての完全優勝。まさに、学生が主役でキラキラ光る姿が眩しかった。
「私はノウハウを隠したりしない。オープンにすることによって、学生陸上界がさらに伸びるからです。また、料理と同じでレシピがあっても味付けが微妙に違ったりするでしょう?同じにはならないものですよ」
こう言って笑っていた原監督の姿を思い出す。原監督の半生記であり、強い選手の育て方、教育の書であり、ビジネス本でもある。2015年4月に発行された本ではあるが、今から読んでも十分楽しめること、太鼓判である。