ラグビーは球技であり格闘技でもある

2015年9月19日、イングランドでラグビー界、ひいてはスポーツの歴史において「最大の番狂わせ」と言われる歴史的事件が起きた。「ブライトンの奇跡」である。

予選プール初戦、24年間ラグビーワールドカップの勝利から遠ざかっていた日本代表が、南アフリカ代表に34対32で逆転勝利を収めた。南アフリカ代表は、過去2回の優勝を果たし、ワールドカップでもっとも勝率が高いと言われる強豪チーム。世界が驚いたのも無理はない。

米国に勝利し、選手と喜び合うエディー・ジョーンズHC。(時事通信フォト=写真)

日本代表を率いていたのは、オーストラリア出身のエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)だった。ジョーンズHCは、過去2回のワールドカップに関わり、通算成績は13勝1敗。世界を知る、誰もが認める名将である。

南アフリカ代表戦の前日、「桜のエンブレム」のついた赤白のジャージーを先発メンバーとベンチのメンバーの計23人に渡したあと、彼はこう訴えたという。

「自分たち、チーム、そして国に誇りを持ってほしい。明日は全員ベストを尽くしてほしい。国のために、南アフリカ代表を殺しにいこう!」

さらに、試合直前にも、ロッカールームの中でも、「死ぬまで戦え!」と選手たちに気合を入れた。

真剣勝負とはいえ、スポーツの現場でこういった言葉が飛び交っていることに驚いた人もいるかもしれない。しかし、そう言わざるをえないほどに、南アフリカ代表と日本代表の体格差は歴然としていた。

そもそも、南アフリカ代表はもっとも体格の大きいチームの1つであり、日本代表はもっとも小さいチームの1つである。チームの代表選手15人で平均すると、身長では6cm、体重では6kg強と、ボクシングでいえば5階級くらいの大きな差があることになる。

また、ラグビーは、球技であると同時に格闘技的な側面もある。そのため、ジョーンズHCは「ラン、パス、キックでボールを賢く動かすことが必要だ」と言いつつも、フィジカルコンタクトが欠かせないとして、「ラグビーは体重制限のないボクシングのようなもの」と強調している。「ルールのある格闘技」と言い換えてもいいだろう。だからこそ、12年に就任した当初から、選手たちには朝5時スタートの過酷なフィジカルトレーニングを課してきたのだ。

もちろん、「格闘技」とはもののたとえで、実際にルールを無視して野蛮な行動をするわけではない。本当に試合中に相手選手を殴ったら、イエローカードは10分間の一時的退場。レッドカードは即退場となる。しかし、ワールドカップという大きな舞台では、それほどの気持ちと覚悟を持って戦わなければ勝つことは到底かなわない。最後は「やるか、やられるか」というメンタルの部分も大きいことを知ったうえでの、指揮官としての言葉だったのだろう。