病院勤務の薬剤師が辞める本当の理由
看護師は患者の話を聴くプロだが、「自分の悩み事を相談するのは下手」なのだそうだ。ゆえに、濱田氏はあえて臨床の現場から離れ、「先輩ナース」として現在のキャリアカウンセリングの仕事に励んでいる。つい1人で頑張りすぎてしまう看護師の相談相手として、全国の病院を飛び回っている。
医師や看護師と比べたら影が薄いのだが、患者が接する機会の多さでは薬剤師という存在も見逃せない。
6年制の薬学科を出た新卒が「勉強をしたかったから」と選ぶ就職先は病院だ。厚労省の調査では、「病院・診療所の従事者」は薬剤師全体の18.8%(2012年)。大学病院などの大病院では30人以上の薬剤師が働いており、高度医療に用いる薬も扱うため、向学心の強い薬学生に人気がある。
だが、新人の多くが配属されるのは院内の調剤室だ。そこではたしかに多種多様な薬を扱っているが、仕事自体はとにかくスピーディーに処方箋通りの薬を患者に渡すこと。病棟勤務になれば、輸液のミキシング、入院患者への服薬指導、チーム医療の中で薬のプロとして見なされるなど、やりがいが大きくなる。が、その前の調剤室勤務があまりに機械的で、「患者さんの役に立っている気がしない」と辞めてしまうケースが目立つ。
そうした院内薬剤師の年収は、400万円前後からスタートと抑え気味だ。中途採用でも400万~500万円がアベレージで、年収500万円の提示は「高い」部類に入る。医療業界の人材紹介などを行うアポプラスステーションで、薬剤師の転職コンサルタントを務める園田みゆき氏はこう言う。
「これからの薬剤師は町の気軽な健康相談窓口や、在宅医療を推進する役割が期待されています。ただ、病院もそうですし、調剤薬局を希望する場合でも、9時5時で早く帰りたい、と言う方がまだ少なくないのが現実です」
町の調剤薬局の従事者(薬剤師全体の54.6%)のうちの大半は女性で、その中でも家庭を持った奥様層の率がかなり高い。郊外や地方ではまだ薬剤師が不足しており、その奥様層の人材活用は業界の大きな課題だ。
調剤薬局やドラッグストアの営業は長時間化している。正社員としてフルコミットできない場合は、時給1800~2300円のパートで住まい近くの調剤薬局に勤めるケースが多い。あるいは、時給2500~4000円の派遣薬剤師になる。額は高いが、2~3カ月契約が普通で不安定な働き方だ。
全体的には薬剤師不足で、選ばなければ仕事はある。が、大都市の中心部ではすでに人余り気味だ。長期的に生き残るには、「在宅」へのシフトチェンジをはじめとした新しい働き方への適応が、必要になってきている。