一国を代表する大企業が続々と不祥事を起こす
このところ、世界的な大企業による悪質なデータ隠しや不正データ絡みの不祥事が目につく。2014年2月に米ゼネラル・モーターズ(GM)のリコール隠しが発覚、エンジンの点火スイッチの不具合などのクレームデータを10年以上も隠蔽していたことが判明した。ビッグ3初の女性CEO、メアリー・バーラ氏は就任直後にこの問題に直面して米議会の公聴会で陳謝、GMは14年だけで世界累計3000万台を超える大規模リコールに追い込まれている。
2015年9月にはトヨタを抜いて販売台数世界一の座を奪還した独フォルクスワーゲン(VW)が、アメリカの排ガス規制を逃れるために不正を行っていたことが判明。ディーゼル車のエンジンに排ガス試験のときだけ排ガス量を減らす違法なソフトウエアを搭載していたという。エンジンデータを偽り、規制をクリアできていない本来のデータを隠してきたわけだ。ヴィンターコルンCEOは引責辞任したが、環境性能の不正はヨーロッパやアジアに拡大、不正車種もアウディやポルシェ、そしてガソリン車にも広がるなど、VWの排ガス不正問題は延焼し続けている。
今年4月、日本では東芝の不正会計疑惑が持ち上がり、歴代3社長の下で組織的な利益の水増しが行われてきたことが明らかになった。これも会計データの不正操作である。
GM、VW、東芝はいずれの国でもトップ企業であり、年金ファンドなどが長期安定した投資先として株式を大量に組み込んでいる企業だ。米政府の全面的なバックアップで再生を果たしたGMはアメリカを代表するメーカー。VWは「フォルクスワーゲン(国民車)」の名前の通り、ナチスの国策企業として創設され、今でも州政府が2割の株を保有している。巨大企業でこのような不祥事が組織的に、そして長期にわたって起きる原因は大きく分けて2つある。1つは経営トップの独裁専横が過ぎて暴走するケースだ。正直に報告しても怒りを買うから、現場はデータを隠したり、数字を操作してしまう。
かつて三菱自動車のリコール隠し問題では、技術畑出身で「ウチのクルマに欠陥なんてありえない」という技術万能主義のトップが君臨していたために、顧客からのクレームを営業の苦情処理の問題に転嫁して長らくクレーム対策が放置されることになった。加ト吉やタカタのエアバッグ問題も創業者・ワンマントップが引き起こした例に入る。GMのリコール隠しも似たような構図があったのだと思う。バーラCEOは「社員が重要な情報を報告するのを繰り返し怠った」と語っているが、単なるケアレスミスでは済まされない。つまりは(会社に不都合な)重要な情報が上に上がらない風通しの悪い組織だったということだろう。
VWと東芝の共通項はトップの内紛。赤字でもない東芝が不正会計に走った背景には、経営トップの確執があった。トップ同士の抗争があると各部門の業績が政争の具になりやすい。エスカレートするとライバル部門に攻撃されないように、自分の部門の業績をよく見せようとして経理が歪むことがままある。大組織でデータ隠しや不正な数字操作が行われる2つ目の原因だ。
VWといえば創業一族であるポルシェ家とピエヒ家の長年の確執が知られているが、近頃はヴィンターコルン前CEOと彼を抜擢した最高実力者のフェルディナント・ピエヒ監査役会長の確執も噂されていた。CEO任期の延長や後継会長の可能性をピエヒ会長から否定されて、ヴィンターコルン氏としては不振のアメリカ市場で業績を上げて巻き返したい気持ちがあったはず。それが今回の不正につながった可能性もありそうだ。