前例がないことは否定されやすい

また、企業は合理的に経営することが求められますので、革新的な新しい何かを開発しようというアイデアがあっても、前例がないためにリスクをとる判断ができないというような理由で、現場から上層部に提案があげられる過程で消されてしまうのも大企業ではよく聞く話です。過去の経験に基づく合理性は、前例のない革新をいとも簡単に否定することができるのです。

最近ではイノベーション推進室や社内ベンチャー制度を作るなどの施策を取る企業もでてきましたので、だんだんと新しいものを生み出すことの価値、イノベーションが生まれる環境をつくる重要性が浸透してきたことがわかります。そういった仕組みで最大のネックになるのは、組織に根付いた慣行です。これを突破するのが起業家なのですが、組織の文化がそれを妨げ、許容範囲のことしかできなくなってしまい、破壊的な創造とまではいかなくなってしまうという組織のジレンマを抱えている企業もあるのではないかと思います。これはベンチャーでも中小企業でも同じことが言えます。

私が会社を立ち上げたのは13年前ですが、起業することを目的にしていたわけではなく、ただ、 自分の研究を世の中で使ってもらうための選択にほかなりませんでした。そのための資金調達に忙殺されましたが、ありがたいことに経営や経済学を教えてくださる方にも恵まれ、イノベーションエコノミクスが次なる経済成長への突破口になるという概念に確信を持つようになりました。

リーダーシップの本質は決断を下し、行動を取れるか、だと思います。大事な局面で判断が鈍ると、自分の行動に影響するだけではなく、 振り返るとついてきてくれていた仲間がいなくなっているなんていうこともありうるわけです。幸いにして、私はやりもせずにできないと決めつけるタイプではないこと、医療という事業ドメインに精通していること、そして躊躇せずアクションをとれるということなどが相俟って、大きな決断をするときでも、仲間の半分は一緒にリスクを取ろうと決意をしてくれます。

私にとってイノベーションとは、ゼロからイチを生み出すことです。 ITや科学技術は急速に発展していて、10年前と比べても入手できる情報量も違えば教育のレベルも上がりました。先人が研究で残してきたことは、私たちの知識となり、それを生かしてブレークスルーを果たし、さらに時代が進化していくわけです。私が挑戦している、世の中に存在しない治療薬の開発もまさにゼロからイチを生み出す流れであり、アンメットメディカルニーズに対するイノベーションだと考えています。

このようなイノベーションを軸に経済を成長させる戦略がまさに現代版イノベーションエコノミクスだと思うのです。