分厚い企画書よりプロトタイプ
博報堂を辞めて起業したとき、これと似たようなことを感じました。ベンチャーキャピタル20社に対してソーシャル・ショッピング・サイト「バイマ」のアイデア(編集部注:海外在住の日本人がバイヤーとなり、サイトにブランド品などを出品。買い手は国内にいながら日本未発売商品を手に入れたり、ブランド品を格安で購入できたりする)をプレゼンしたところ、19社からは返事もなし。残りの1社も「個人としては投資するけれど会社としてはNG」という結果でした。
何とか出資先が決まったものの、その後も苦労は続きました。もっとも大変だったのは決済会社との交渉です。大手はリスクを取りたがらず、規模が小さいところは受けてくれても手数料が高いうえ、入金までの期間が長い。手数料はあきらめ、入金サイクルを短くすることに絞って中堅の決済会社と交渉しました。
その結果、入金サイトを短くしてもらえただけでなく手数料も下がりました。我々の「新しいことをやりたい」というパッションと「博報堂を辞めてバイマに懸けている」という覚悟を買ってくれたのでしょう。
このときもそうでしたが、ベンチャー企業ではパッションで物事が動くケースが多いと感じています。ただ、いま経営者になって思うのは「本当は大企業でもそうだったのではないか」ということです。
博報堂時代、私は大企業の一員として、どれだけ正しい企画をつくるかという思いで正解を探しながら仕事をしていました。ところがビジネスの現場では、企画の成否は携わる人たちの情熱とセンスが決め手で、内容の正確さや条件はそれほど大きな要因ではありません。当時、もっと感情的に企画書を書いてみたり、企画書なしでまず自分の思いをぶつけてみてもよかったのではないか、といま振り返って思います。