あなたの「ミッキーマウス」でいたい
「食べるペースがゆっくりのお客様に対しては、気を遣って料理をゆっくり出すようにします。けれどもそういうときに限って、『料理が出てくるのが遅い。もっと早く出せ』とお叱りを受けるんです」とは新橋のファインダイニングのマネージャーの台詞です。
このようなケースは飲食店の関係者からは「あるある」と共感を呼びそうです。お酒を飲んでいるお客に、酔いすぎないように途中で水を出したら「余計なものを持ってくるな」と突き返されたり、皿にまだ料理が残っているからあえて下げないでおいたら「早く下げてくれ。気が利かないな」とダメ出しをされたりなど、似たようなケースはしばしば起こります。お客のために良かれと思ってやったことが、逆効果になるというパターンは実によくあります。
一部の日本酒がブームになった影響か、こんな傾向もあるようです。渋谷の居酒屋店主は「たくさんある日本酒の中で、自分が知っている有名な銘柄しか飲まないお客さんはとても多いですよ」と言います。私自身も、「銘柄の漢字が読めないので頼まない」などということもあるので、こうした人の気持ちはわからなくはありません。しかし、もっとおいしいお酒を飲みたいとか、せっかくだったら日本酒の世界を広げたいと思うのであれば、むしろお酒に詳しいスタッフに素直に質問したほうが、自分自身が楽しい体験ができるのは間違いありません。
次にご紹介するのは、常連ほど気をつけたいポイントです。「今度飲みに行こうよと、誘ってくれる常連さんは結構います。もちろんその気持ちはうれしいんですけれど、『だったらその分ウチのお店に来てよ』というのが正直な気持ちですね」。これは六本木のイタリアンレストランの店長の発言です。そしてこう続けます。
「例えがおこがましいですけれど、いくらミッキーマウスが好きでも、ミッキーを連れて原宿に遊びには行かないですよね。ミッキーに会いにディズニーランドに行くじゃないですか。僕はミッキーマウスでいたいんです。僕に会いたいならば、よその店に一緒に行くんじゃなくてウチの店に来てくださいって、心の中では思っています」