選挙結果を受け、テインセイン大統領、およびミンアウンライン国軍司令官は、国民の意思に従い選挙結果を受入れ平和裏に権力移管を行うと宣言した。軍が選挙結果を受け入れずクーデターを心配する声も多いが、まずは宣言通りに、平和裏に権力移譲が行われることが期待される。

『これ1冊ですべてわかる! ミャンマー進出ガイドブック』(小山好文・宍戸徳雄共著、プレジデント社)

新興国において軍政から民政へ権力移行をする過程では、なかなかスムースに権力移管ができず軍のクーデターが起きることもある。民主化後の軍政時代への報復措置を恐れて権力を容易に手放すことができないのだ。しかし今回のミャンマーは、人権尊重主義者であるアウンサンスーチー女史が権力者となることで、彼女が旧軍政関係者への報復をせず、平和裏に権力移管ができると想定しているのではないだろうか。ある意味、テインセイン政権は、このような将来的な流れを想定して民政移管後の緩やかな改革を進めてきたとすれば、まさに賢明な権力移行のシナリオだったと後世において評価されよう。

もちろんアウンサンスーチー女史は、延べ15年に及ぶ軍による軟禁や様々な抑圧にも耐え、よくここまで民主化実現のための政治活動を続けてきたと思う。私が昨年、ヤンゴンにて彼女にお会いした時の印象は、その身体からみなぎる強靭な精神力と、民主化と法の支配実現への頑強な意思がオーラとして感じられる程であった。もっとも彼女の理念に対して妥協を許さない姿勢は今後の議会運営、軍との関係再構築において障害ともなり得る。その徹底した理念上位も、国政安定のためには、幅を持たせて妥協点を見出さなければならない場面が来るだろう。まずは権力移管の手続きをスムースに平和裡に行うためにも軍や現与党との協力が不可欠である。

ここからは彼女自身が言うように、真の民主化を国民自らの手で進めなければならない。国や彼女に頼ってばかりいては民主化の深化はない。国民にその自覚が必要となる。永く統治上の懸案事項であった少数民族を含めた国民和解を実現する為にも民主主義に立脚した文民統治への信頼確保とその不断の向上が不可欠である。ここミャンマーでは力を持ってして国民和解は出来ないことは歴史が証明している。軍の統治機能に依存してきた氷上の連邦制は、今こそ文民統治への国民の信頼をベースに民族融和への国民相互理解を深めるべきである。新たにスタートラインに立つミャンマー。ここからの道のりは平坦ではない。民主化の果実は国民自らが作り上げる努力をしなければならない。

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