「民間保険」より貯蓄を優先せよ
高齢化とともに増え続ける医療費と、それを支える保険制度の疲弊。状況は厳しいが、「公的医療保険はいずれ破綻する」と考えて、民間医療保険に手厚い保障を求めるのは早計だ。ファイナンシャルプランナーの内藤眞弓氏は「民間の医療保険に加入しても決して老後は安心できない」と話す。
「民間医療保険は医療費負担がどんなに重くなろうと、入院などの契約条件を満たさない限り、一切受け取れません。日本の公的医療保険の保障の厚さを考えれば、医療費のためだけに使えるお金が150万円程度あれば十分。保険に払うお金を貯蓄にまわして老後に備えたほうが合理的です」
日本はすべての人がいずれかの公的医療保険に加入する「国民皆保険制度」だ。このなかには医療費の支払額を一定以下に抑える「高額療養費制度」があり、保険内であればどれだけ高度な医療を利用しても、支払額は10万円程度で済む(図3)。このため医療費が数百万円に及ぶようなケースはない。
以前は、窓口で全額を立て替える必要があったが、現在は「限度額適用認定証」を提示すれば、自己負担限度額だけの支払いで済ませられるようになった。
さらに会社員などが加入する健康保険には「傷病手当金」の制度があり、病気やけがで3日連続して休むと、4日目以降から最長で1年半のあいだ手当金が支給される。内臓疾患などが治癒せず障害と認定されれば、公的年金から障害年金が受け取れるが、これは自営業者なども対象となる。
内藤氏は「公的保険を信用せずに、民間保険を信じるのは間違い」と話す。
「米国のように、医療を市場原理に委ねたために、高額の医療費で自己破産する人が続出する未来図は避けるべきです。日本の1人当たりの医療費は、米国の3分の1以下。医療費の総額は増えていますが、各国と比べれば効率的で優れた制度だといえます」
ファイナンシャルプランナーの小屋洋一氏も、「日本の公的保険は手厚く、民間保険は必要ない」と話す。
「保険より貯蓄を優先させたほうがいいでしょう。医療財政の現状は厳しいですが、現状でもかなりの負担感があるので、これ以上、自己負担割合を引き上げることは考えづらい。負担増があるとすれば、高額所得者や資産家などに対象を限ったものになるでしょう」
内藤氏は「医療保険をセールスする人が『公的保険は信用できない』というのは無責任すぎる」と話す。1961年に「国民皆保険制度」が始まって以降、日本人は公的保険の恩恵を受けてきた。だが、限られた予算と人員で対応しなければならない医療現場は窮状を訴えるようになった。世界に誇る「皆保険」を守れるかどうか。いま正念場を迎えつつある。
・これ以上の負担増は考えづらい
・負担増はあっても「高額所得」が対象か
・民間の医療保険より貯蓄でまかなう
・「高額療養費制度」を賢く使いこなす
・最大の課題は医療現場の疲弊改善
内藤眞弓(ないとう・まゆみ)
1956年年生まれ。大手生保に13年間勤務後、独立。独立系FP会社「生活設計塾クルー」取締役。著書に『医療保険はすぐやめなさい』など。
小屋洋一(こや・よういち)
1977年生まれ。マネーライフプランニング代表。近著に『30歳サラリーマンは、年収1000万円でも破産します。』がある。