▼不安ポイント
・65歳まで雇用義務あり。だが大企業の半数は「制度未導入」
・再雇用されると待遇は? どんな仕事があるのか
・キャリアをいかした独立は若くなくても可能か

「大企業」出身者ほど年収は大幅にダウン

2013年4月、「改正高年齢者雇用安定法」が施行された。企業に対し、希望した社員全員の65歳までの雇用を義務づけるもので、違反企業は社名が公表されることもある。サラリーマンには朗報と思える施策だが、実は手放しでは喜べない。これは決して「定年を65歳まで延長する」という法律ではないからだ。

今回の法律は、老齢年金の支給開始年齢にあわせて、雇用年齢の上限を段階的に引き上げることを認めている。年金の支給開始は、2025年までに65歳へと段階的に引き上げられるが、その間たとえば63歳から年金をもらう人は、法律では63歳までしか再雇用が保障されない。つまり年金受給までの「つなぎ」の意味合いが強い。

厚生労働省の調査によると、全国の約14万社のうち、「65歳以上まで働ける」という企業は66.5%。特に従業員301人以上の大企業では48.9%に留まる(図1)。さらに内訳をみると、雇用年齢の引き上げについて、「定年の廃止」を選んでいる企業は2.6%で、「70歳以上まで働ける企業」も全体の18.2%にとどまっている(図2)。企業は高齢者を雇用することについて、まだ及び腰だ。

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図1:「65歳以上まで働ける企業」は6割以上に/図2:「70歳以上まで働ける企業」はまだ少ない/図3:60歳定年で2割強は「退職」を選んだ

高齢者雇用にはほかにも落とし穴がある。法律が義務づけているのは、「継続雇用制度の導入」であり、たとえば「週3日勤務、2人で1人分の業務を担当する」という勤務形態は「合理的な裁量の範囲」で、適法とされる(厚労省「高年齢者雇用安定法Q&A」)。このため定年前と定年後では、仕事の内容は大きく変わる恐れがある。実際、厚労省の調査でも定年後、22.3%は継続雇用を希望せず、1.2%は希望したが条件が合わず継続雇用されなかった(図3)。

実態はどうなのだろう。経営人事コンサルタントで、2010年度から3年間、国の「高齢者雇用アドバイザー」を務めた榎本雅一氏は、「ボーナスなし。年収は4割減が普通です」と話す。

「定年が延長されるのではなく、あくまで再雇用。年収が低い中小企業では、現役時の2割減程度になることもありますが、年収の高い大企業に勤めていた人ほど削減額は大きく、6割減という会社も珍しくはありません」

変わるのは給料だけではない。多くの部下を率いていた管理職が、嘱託として再雇用される。すると机はパート社員と同じ末席に。椅子は肘付きから肘なしに。ロッカーは新人と同じ出入り口近くに。掲示板は「○○部長」から姓のみに。一回りも年下の部下が上司になり、細かく指示を受ける――。

ここでジッと耐えるか、爆発して辞めてしまうか。なかには嘱託者の気持ちを慰めるために、「主幹部長」や「プロフェッサー」という特別な肩書を用意するケースもあるという。