スキルない「会社人」は厄介払いされる
会社側がどれだけ配慮してくれるかはわからないが、榎本氏は「『会社人』ではなく『仕事人』としての意識を持つ人は適応しやすい」と話す。
「『会社人』の典型は人間関係や派閥の強みで出世してきた人。専門知識やマネジメント力を培うことなく、上司の命令に忠実に従ってきた。こういう人は、『これだけ会社に尽くしてきたんだから、定年後はねぎらってもらえるはず』と考えがちですが、再雇用では使いづらい。一方、『仕事人』は業務を通じて専門性を身につけている人材。社内外にネットワークを持っていて、自分のスキルや能力を客観的に評価できる。こういう人は歓迎されます」
定年を控えて、会社側が「勇退」をもちかけるケースもある。社長との会食や豪華な慰労表彰を通じて、自発的に退職を選んでもらうのだ。企業にとっても「会社人」にとっても、お互いにメリットがある選択肢だが、「明確な定年後プランがある人を除けば、できるだけ会社にしがみついたほうがいいでしょう」(榎本氏)。
嘱託再雇用で「負け組」になりたくない。そう考えるなら、独立という手もある。榎本氏は三つの働き方を「拡雇用」と呼んで提案している。人事や会計などの特定分野について請け負う「インディペンデントコントラクター」、営業や販路開拓を代行する「セールス・リプレゼンタティブ」、経営幹部への助言を行う「コンサルタント」である(図4)。いずれも現役時代の専門性を拡げた働き方だ。
独立における最大の障壁は、いかに顧客と出会うか。榎本氏自身、1990年にコンサルタントとして独立しているが、前職でのつながりから顧客が増えていったと話す。
「経験のないことにチャレンジしても成功は難しい。『やりたいこと』より『できること』。定年を、キャリアのリセットではなく、働き方を変えるチャンスと捉えられる。そういう人は『拡雇用』を考えてみてほしい」
・「定年延長」ではなくあくまで再雇用と心得る
・年下の上司にもグッと我慢する
・プランがなければ会社にしがみつくべき
・定年はリセットではなくチャンスと捉える
榎本雅一(えのもと・まさかず)
1951年生まれ。元・高年齢者雇用アドバイザー。著書に『60歳までに知らないとヤバい定年再雇用の現実』などがある。