この業界を長年見ているあるアナリストは、「確かに先行者の利はあった。だがそれに甘んじることなく、良いものを作ろうと改善を重ねている」とSalesforce.comの強さを分析する。合わせて指摘したのが「言葉遣い」だ。技術企業はとかく専門用語を並べがちだが、Salesforce.comは分かりやすさを重視しており、これが経営トップの支持につながっているという。

これらの取り組みは結果となって表れている。会計年度2015年の売上高は、前年比32%で成長し53億7000万ドルに達した。CRMではすでにナンバー1だ。顧客数は15万社を数え、日本企業でもトヨタ自動車、日本郵政グループなど多数のユーザー企業を抱える。

「ありがとう」――ベニオフ氏が基調講演で述べた言葉には、同社が一貫して重視している顧客主義が現れていると感じた。

慈善活動への注力と「1-1-1」モデル

同社のDreamforceイベントを「お祭り」と形容する人がいるが、これはかなり正しい。Dreamforceは数あるIT系イベントの中でも参加者数が群を抜いており、今年は登録だけで17万人近く。もちろん最大規模だ。会期中、サンフランシスコの街は企業カラーの水色に染まる。メイン会場に近いハワード通りは閉鎖され参加者のイベントスペースと化す。

17万人近くが来場した2015年のDreamforce。ホテルが足りず、サンフランシスコ湾に客船を浮かべ宿泊施設にしたほどの盛況ぶり。

ゲストの顔ぶれもゴージャスだ。今年は競合でもあるMicrosoftのCEO、サトヤ・ナデラ氏をはじめ、Cisco Systems、You Tube、Uber、Boxなどの各CEOやハイテク業界のトップが集まり、顧客企業のトップも遠方から駆けつけた。また、女優のジェシカ・アルバ、ゴールディー・ホーン、デザイナーのダナ・キャランなども華を添える。講演の間にはステービィー・ワンダーやYoshikiといったアーティストがパフォーマンスを披露し会場を盛り上げた。

DreamforceはSalesforce.comだけでなく、慈善活動のための非営利組織、Salesforcce Foundationのイベントでもある。今年、イベントスペースには小さな学校を模した施設が登場し、小学生向けに本の寄付を募った。地元サンフランシスコの慈善活動を支援するもので、目標は100万冊。16万人以上の来場者に対し、事前に今年の事前活動を告知したところ、4日目で無事100万冊が集まった。自宅から持ってきた2冊の本を寄贈したテキサスの旅行システム会社に勤務する女性は、「良いことだと思うし、(Salesforce.comに対する)印象が良くなる。毎年、慈善活動にも参加するようにしている」と語った。別会場ではNPO向けのセッションが多数開催された。よき企業であろうとする姿勢は支持されているようだ。

慈善活動は、技術(クラウド)、ビジネス(サブスクリプション)に加え、ベニオフ氏が「Salesforce.comが遂げた3つ目の革新」として胸を張るものだ。ベニオフ氏のアイディアで、同社は創業時から製品の1%、従業員の労働時間の1%、株式の1%を社会貢献活動に費やすという「1-1-1」モデルを敷いている。口先で終わらないよう、社員は入社後のトレーニングの一部として慈善活動を行う。創業からこれまでの間、同社の世界の従業員が社会活動に費やした時間は110万時間。無料でライセンスを提供した非営利団体は2万6000以上に達しているとのことだ。いまではGoogle、Boxなどの企業も、この1-1-1モデルを採用している。