水道で蛇口をひねると水が出てくるくらい簡単に使える業務ソフト
Salesforce.comが上位3社のMicrosoft、Oracle、SAPと最も大きく異なるのは、同社の事業がクラウドのみという点だ。米Googleの検索やGmailなど、消費者向けのソフトウエア会社ではすっかりおなじみのクラウドだが、顧客関係管理(CRM)や営業支援(SFA)といった法人向けソフトウエア業界で、同社は草分け的存在である。
MicrosoftのWindowsやOffice、Oracleのデータベースなどは、顧客がライセンスを購入してPCやサーバーにインストール・設定する「オンプレミス」と呼ばれるモデルを長年採用してきた。そのOracleに勤務していたベニオフ氏は1990年代後半、「業務ソフトウェアはなぜ、Amazonで本を買うように簡単に使えないのか」と考えていた。蛇口をひねると水が出てくる水道のようなソフトウェアを実現したい――その解が、インターネットを利用してオンデマンドでサービスを提供することだった。現在は「クラウド」「SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)」といわれるものだ。
こうして1999年3月に生まれたのがSalesforce.comだ。キャッチフレーズは“No Software”。インストールが必要なソフトウェアは要らない、というメッセージだった。
クラウド+サブスクリプションモデルで業務ソフトを提供した草分け的存在
Salesforce.comはクラウドという新しい技術モデルを考案しただけではない。「購読」を意味する「サブスクリプション」という課金形態も新しかった。顧客は、水道や電気のように使った分に対して対価を払えばよい。
こうした、クラウド+サブスクリプションモデルは近年、IT業界でどんどん広がっている。当初はクラウドを軽視していたOracle、SAP、Microsoftですら、ここ数年はクラウドで提供するソフトウェアのラインナップを拡充している。Microsoftの「Office 365」はその代表例だ。
クラウド時代の到来をいち早く予測したSalesforce.comは同時に、「サブスクリプションというビジネスモデルは、これまでのような“縛り付け”が効かない」という点も理解していた。ユーザーが契約を解除すれば、OracleやSAP、あるいはSugarCRM、Workday、NetSuiteといったベンチャーが提供する他社のクラウドサービスに簡単に乗り換えられてしまう。クラウドは見方によっては大きなリスクを伴うビジネスなのだ。
そこでSalesforce.comでは、「顧客がわれわれの製品を使って成功していれば、われわれのソフトウェアを使い続けてくれる」という考えの下、顧客満足度を最重要事項にしている。それを具現しているのが、営業やサポートとは別に存在する「カスタマーサクセスグループ」という部隊だ。このグループは、製品の利用が少ない顧客があれば、なぜ利用につながっていないのかを調べるなど、ユーザーを対象にコンサルやアドバイスを行う人たちで、解約率やソフトウェアの利用料が報酬に反映されるという。
また、ユーザーや提携先が機能面でなにを望んでいるのかのニーズを汲む仕組みとして、「IdeaExchange」というオンラインフォーラムも用意している。顧客らはこれを利用してSalesforceの開発チームに機能をリクエストでき、開発チームは要求の多いものについては年3回リリースする最新版に反映させる。「顧客と共にシステムを育てる」という考えだ。