※本稿は、沢渡あまね『「すぐに」をやめる ネガティブ・ケイパビリティの思考習慣』(技術評論社)の一部を再編集したものです。
会議で上司が部下に「何かアイデアない?」
今日は月イチでおこなわれる部内の全体会議。部課長を含む、総勢12名のメンバー全員が会議室とオンラインミーティングに一堂に会し、その月の重要テーマや進捗などが共有される。後半30分はグループディスカッション。会社や部門全体の課題について話し合われる。
今月のテーマは新規事業について。業績拡大のための新たなアイデアを募りたく、各部でも意見出しをしてほしい。経営幹部からそのようなオーダーがあったとのことだ。
「なにか、新規事業につながりそうなアイデアはない? 思いつきでもいいし、自分のやりたいこととか、そういうのでもいいからさ」
部長の佐久間が、半ば投げやりなモードでたきつける。
「では、僕からいいですか?」
ここぞとばかりに、チームリーダーの矢作が手を挙げる。相変わらずアグレッシブである。黒部も中途入社なりに、自分の意見を述べる。
と、そこまではよかった。黒部の横でずっと俯いている男性社員がいる。新卒入社5年目の須田貝だ。須田貝は普段からおとなしく、あまり自分の意見を言おうとしない。
「須田貝くんはどうよ? さっきから黙ったままだけれども……」
佐久間の矛先が、須田貝に向けられた。
「うーん、そうですね……」
ますます俯き加減になる須田貝。
「いや、そうですねじゃなくて。あなたは、どうしたいの? 日頃から考えていることとか、興味とか何かあるでしょう」
マネージャーの薗原も急かす。
「まあ、ないんならいいや」
そこで会議はお開きになった。
発言しない人はものごとを深く考えていないのか
皆が退出したその時、薗原はぼそっとこう言い残した。
「須田貝くんは、ものごとを深く考えようとしないところがあるからなぁ……」
その何気なくも鋭いひと言が、黒部をモヤモヤさせた。
須田貝がものごとを深く考えない? 断じてそんなことはない。黒部は入社以来、たびたび須田貝の世話になっている。わからないことを尋ねた時も、須田貝はその場では答えられなくても、後で必ずチャットで返してくれる。その文章は論理的で、初心者の黒部にもわかりやすい。