何事も「スピード解決」を図る会社に問題はないのか。400以上の企業や官公庁に組織変革支援を行ってきた沢渡あまねさんは「会議で素早く自分の意見を述べられない部下を『無能扱い』する会社があるが、そういった企業は大切なものを失っている」という――。

※本稿は、沢渡あまね『「すぐに」をやめる ネガティブ・ケイパビリティの思考習慣』(技術評論社)の一部を再編集したものです。

会議で挙手をする女性
写真=iStock.com/suney munintrangkul
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会議で上司が部下に「何かアイデアない?」

今日は月イチでおこなわれる部内の全体会議。部課長を含む、総勢12名のメンバー全員が会議室とオンラインミーティングに一堂に会し、その月の重要テーマや進捗などが共有される。後半30分はグループディスカッション。会社や部門全体の課題について話し合われる。

今月のテーマは新規事業について。業績拡大のための新たなアイデアを募りたく、各部でも意見出しをしてほしい。経営幹部からそのようなオーダーがあったとのことだ。

「なにか、新規事業につながりそうなアイデアはない? 思いつきでもいいし、自分のやりたいこととか、そういうのでもいいからさ」

部長の佐久間が、半ば投げやりなモードでたきつける。

「では、僕からいいですか?」

ここぞとばかりに、チームリーダーの矢作が手を挙げる。相変わらずアグレッシブである。黒部も中途入社なりに、自分の意見を述べる。

と、そこまではよかった。黒部の横でずっと俯いている男性社員がいる。新卒入社5年目の須田貝だ。須田貝は普段からおとなしく、あまり自分の意見を言おうとしない。

「須田貝くんはどうよ? さっきから黙ったままだけれども……」

佐久間の矛先が、須田貝に向けられた。

「うーん、そうですね……」

ますます俯き加減になる須田貝。

「いや、そうですねじゃなくて。あなたは、どうしたいの? 日頃から考えていることとか、興味とか何かあるでしょう」

マネージャーの薗原も急かす。

「まあ、ないんならいいや」

そこで会議はお開きになった。

発言しない人はものごとを深く考えていないのか

皆が退出したその時、薗原はぼそっとこう言い残した。

「須田貝くんは、ものごとを深く考えようとしないところがあるからなぁ……」

その何気なくも鋭いひと言が、黒部をモヤモヤさせた。

須田貝がものごとを深く考えない? 断じてそんなことはない。黒部は入社以来、たびたび須田貝の世話になっている。わからないことを尋ねた時も、須田貝はその場では答えられなくても、後で必ずチャットで返してくれる。その文章は論理的で、初心者の黒部にもわかりやすい。